2014年1月 1日 (水)

本 「女子高生、リフトオフ!」

著者の野尻抱介さんという作家は全く知りませんでした。
「女子高生、リフトオフ」というタイトルがキャッチーだったので、書店で手にとってみました。
帯を見ると「宇宙開発SF」とあったので、タイトルの割りに中身はハードSF的なものかと思いました。
出版しているのも早川書房ですし。
で、読み始めてみると割と軽いタッチで宇宙開発が描かれます。
宇宙開発技術の描写はしっかりと科学的な裏付けもあり丁寧です。
本作が出版されたのは1995年でずいぶん前なのですが、今の宇宙開発の状況を予見しているようなところもありますね。
あとまだ実用化されていない技術などでもスキンスーツなんてものにも技術的な描写をしていて興味深いです。
スキンスーツていうのは、「ガンダム」に出てくるような体にぴったりとしている宇宙服のこと。
現在使われている宇宙服はダボダボでごつく服というよりは小さな宇宙船みたいなものですから、なかなか自由に動きづらいわけです。
そういうマイナス点をなくすためにNASAでもスキンスーツはけんきゅうされているようです。
技術的描写はハードめなのですが、登場人物たちの描写はけっこうライトです。
読みごこち的にはハードSFというよりはSFのラノベのような感じでしょうか。
それもそのはずでこちらの作品、早川書房の前は富士見ファンタジア文庫に収録されていたようです。
なるほど作品のタッチ的にはそちらのほうがイメージ合いますね。

「女子高生、リフトオフ!」野尻抱介著 早川書房 文庫  ISBN978-4-15-031136-0

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本 「とっぴんぱらりの風太郎」

万城目学さんの始めての時代劇作品となります。
「鴨川ホルモー」「プリンセス・トヨトミ」など一風変わったユニークな物語を描く万城目さんが時代劇をどのように扱うか興味深いところです。
時は戦国時代、豊臣家による天下統一はされたが、秀吉が死にまた天下が動きそうな予感があるそんなとき。
主人公は伊賀の忍者、風太郎(ぷうたろう)です。
彼は幼い頃より伊賀で忍者として教育されましたが、あることでそこを放逐され、流れた先の京都でその日暮らしをしていました(まさにプータロー)。
しかし、あるとき一つのひょうたんを手に入れ、そこに憑いているもののけのようなもに出会います。
また古巣の伊賀もなにやら策動を開始している様子。
風太郎は否応なしに風雲急を告げる戦乱に巻き込まれていきます。
ひょうたんに憑いているもののけなんていうのは万城目さんらしい設定ですね。
また万城目さんは今までの作品でも関西を舞台にしていて、関西人への思い入れが強く感じられますが、本作もそうですね。
本作の後半は大坂冬の陣、夏の陣が描かれますが、そこでのエピソードはもしかすると「プリンセス・トヨトミ」に繋がったりするのかなと思って読んだりもしました。
大坂冬の陣、夏の陣のあたりは物語もシリアスで、かつ忍者ものとしての活劇描写も多く、本格的な時代劇に仕上がっていると思います。
ページ数もボリュームは多く、かなり読み応えのある作品です。

「とっぴんぱらりの風太郎」万城目学著 文藝春秋 ハードカバー ISBN978-4-16-38500-7

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2013年12月31日 (火)

本 「陽だまりの彼女」

こちらの作品は映画の方を先に観ました。
切ないラブストーリーですが、ほんわかとした雰囲気がまさに陽だまりのような感じで好きな作品です。
なので小説を読んでいる時も、浩介は松本潤さん、真緒は上野樹里さんのイメージで読んでました。
大きな流れは映画も小説も同じなのですが、細部のエピソードの順番などは違っていたりしますね。
映画の方が流れがよりしっくりくる感じがしましたが、僕の初見が映画だったからかもしれません。
後から作られた映画の方が構成をより練れているというのもあるかもしれません。
あとこの作品は音楽がひとつポイントになっているのですが、映画はそれをうまく使っていますよね。
これは映画ならでは。
映画と小説で大きく違うのはラストです。
これはどちらが好きかどうかは分かれるところでしょうね。
他の方のブログの映画レビューでは、原作を先に読んだ方では小説のラストがいいという意見もありました。
僕は映画のラストの方が好きかな。
あちらのほうがハッピーな感じで。
ビジュアルで見せられる映画的な強みがありましたけれども。

映画「陽だまりの彼女」の記事はこちら→

「陽だまりの彼女」越谷オサム著 新潮社 文庫 ISBN978-4-10-13561-6

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本 「書店ガール」

アマゾンのようにネットで本が手軽に買えるようになったり、電子書籍が普及してきたりしていますが、僕は書店でリアルに本を手にとって買うのが好きなんですよね。
ブラブラと店を流して見ていると予期していない本との出会いがあったりするので。
ベストセラーはどこのお店でも並んでいますが、時々他の店ではあまり目にしない本に出会えることもあります。
そういうのが楽しい。
それも書店の店員さんの目利きや並べ方によるものなんですよね。
本作「書店ガール」は書店の店員さんを題材にした小説です。
いわゆる「お仕事」系ですね。
お仕事系の作品は馴染みのある仕事でも知らないことなどが描かれていて楽しく読めるのですが、本作もそうです。
本の並べ方やフェアの企画でお客さんの反応が変わってくる、そういう書店ならではの醍醐味が伝わってきます。
主人公は書店の副店長でアラフォー独身の理子、そしてその部下で自由奔放で協調性がない亜紀。
二人は性格も考え方も違いことごとく対立しますが、本と書店が好きということは共通しています。
やがて勤める書店が存続の危機に陥り、二人は協力してそれを阻止しようとします。
その中で二人はお互いに認め合っていく。
王道といえば王道のストーリーですが、やはりこういう作品は読んでいて爽快だからいいですね。
こちらの作品好評だったようで続編も書かれています。
そちらも今度読んでみようと思います。

「書店ガール」碧野圭著 PHP研究所 文庫 ISBN978-4-569-67815-3

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本 「ヒア・カムズ・ザ・サン」

こちらの作品は数行のプロットがあって、それを元に着想して有川浩さんが書いた作品です。
それが「ヒア・カムズ・ザ・サン」。
文庫にはもう一つの作品が収録されていて、そちらが「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」。
こちらは同じプロットを元にキャラメルボックスが舞台にしたお話を元に、有川浩さんが書いたストーリーです。
つまりプロットは同じながらも別の物語、パラレルワールドの物語ということですね。
登場人物は多くがかぶっていますが、全く別のお話しになっています。
両作品ともいつもの有川さんのお話よりはシリアステイストが強い感じでしょうか。
「旅猫リポート」もそういう意味ではシリアスなお話でしたので、最近の有川さんの作品の傾向なのかもしれません。
特に「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」のほうがさらにシリアス色があるでしょうか。
個人的な好みでいえば、「ヒア・カムズ・ザ・サン」の方が好きかな。
真也とカオルの関係性がやはり有川作品ぽいからでしょうか。
こちらの作品、キャラメルボックスではなく、別の劇団でまた舞台になるとか。
この2作品とはまた違うお話になるのでしょうか。

「ヒア・カムズ・ザ・サン」有川浩著 新潮社 文庫 ISBN978-4-10-127633-5

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2013年12月23日 (月)

本 「トワイライト」

4作目まで映画化された「トワイライト」シリーズの1作目「トワイライト」です。
今さら感はありますが(笑)。
お話はみなさんよくご存知の通りです。
映画を先に観ていますが、原作小説にかなり忠実に作られていることがわかります。
こちらのシリーズは少女の理想というか、お姫様物語のような非常にロマンティックな展開になっており、いい年をした男性である自分が読むとなんというか、こそばゆくなります。
特にエドワードのセリフはいちいち気障なので、こそばゆさが倍増しです。
映画だと字幕だし、スルッとそういう気障なセリフは流せるんですが、小説だと文字で目の前に表れますからね。
でもこういう気障なセリフを言ってほしいのでしょうね、女子は。

映画「トワイライト 〜初恋〜」の記事はこちら→

「トワイライト(上)」スティファニー・メイヤー著 ヴィレッジブックス 文庫 ISBN978-4-86332-013-0
「トワイライト(下)」スティファニー・メイヤー著 ヴィレッジブックス 文庫 ISBN978-4-86332-014-7

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2013年12月22日 (日)

本 「ガール」

奥田英朗さんの作品で、昨年だったか映画化にもなりました。
本作は5編の短編集ですが、映画はそのうち4つのエピソードを取り上げてそれぞれの短編の主人公たちを友人という設定にして一つの物語にしています。
この作品は30代を過ぎた女性を描いています。
主人公はそれぞれ自分がやりたいこと仕事をバリバリとしながら過ごしてきた女性ですが、ふと30代になり気がついた時いろいろと不安な気持ちが起こってくる、そういった女性の心情を描いています。
「ヒロくん」の主人公聖子はやり手のキャリアウーマンで、結婚しているけれども子供なし。
親からは子供を作れとうるさいし、会社では昇進したのは良いけれども、年上のいうことを(女だとバカにして)聞かない部下もできた。
旦那のヒロくんはマイペースで会社勤めをしているが、実際は聖子のほうが給料もよく、ヒロくん本人は気にしていないものの聖子は世間体が気になる。
2作目の「マンション」はマンション購入に悩む独身OLを描きます。
マンションを買ってしまうと、それでもう独身がフィックスされてしまうのではないか、でも憧れの家ももっていみたいという想いに逡巡します。
3作目の「ガール」は映画でもメインになった話ですね。
バリバリと楽しく仕事をしている主人公と、その得意先の真面目なOL。
女らしくいるってことは働くことと両立できるのか、どうなのか。
4作目「ワーキング・マザー」は子育てと仕事の両立に悩むシングルマザーのお話。
これはけっこう悩ましく思っている方も多いでしょうね。
5作目「ひと回り」は、新入社員に一目惚れしてしまったお局チックなOLの話。
映画とは違ったビターな終わり方ですね。
本作は、等身大の女性の悩みが描かれいるので女性の共感も高いかもしれません。
ぶっちゃけ男性でもずっと独身だと周囲にいろいろ言われるわけで独身の女性と同じような悩み等も持っていたりするので、そのあたりは共感できましたよ、うん。
一度この作品を読むと映画の方はよくまとめてあるなと感じます。

「ガール」奥田英朗著 講談社 文庫 ISBN978-4-06-276243-4

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2013年12月 8日 (日)

本 「桜ほうさら」

その人の人生を大きく変えてしまう出来事が起こってしまうということがあります。
主人公笙之介は地方の小藩の下級武士の家でしたが、父親が汚職で断罪され、彼も未来を閉ざされ、流れて江戸に至りました。
もともと武芸は達者ではありませんが、学問について優秀であった笙之介は江戸で写本の仕事を生業とし、生活をしていました。
江戸で市井の人々と交わりながら、徐々に普通に生活を営んでいくようになりますが、それでも彼の心のなかには父の汚名をそそぎたいという想いはずっとありました。
そのためか、笙之介の生活はただ生きている、といったような感じで無気力さのようなものがあったようにも見えます。
しかし彼は和香という女性と出会い、彼女の賢さ、強さを知るにつれ、恋心のようなものを持ちます。
それとは並行し、父の死の謎も次第に明らかになっていきます。
そのような出来事を通し、笙之介の人生は再び歩みをはじめていこうとします。
笙之介には兄がおり、その名を勝之介と言いました。
彼もまた父親の罪のため、出世の道を閉ざされていました。
もともと勝之介は武芸も秀で、下級武士であった父親や、武士としてあまりに弱々しい笙之介のことを蔑んでいたところがあります。
しかし勝之介は父親の事件により、世の中を恨みがましい目で見るようになりました。
その恨みがましい気持ちは、本人から出たものでありながらも、本人自身を縛るほどに強いものになっていきました。
恨みといった強い感情は得てしてその人自身の人生すらも束縛してしまうものです。
人生にはいろいろな出来事があります。
しかしその出来事の見方は幾通りもあって、その見方によってその後の人生も決まってしまうのかもしれません。
兄である勝之介は恨みにずっと縛られてしまった。
弟である笙之介は無気力的になっていた中で、人々と出会い、その事件のことを素直に受け止めるようになった。
タイトルの「桜ほうさら」はものがたりの中ででてくるオリジナルの言葉です。
もとは山梨の方言の「ささらほうさら」でいろいろあって大変なことのことを言うそうです。
それをもじって和香は「桜ほうさら」と言いますが、本の一文字を変えただけでなにか、語感も変わりなにかゆったりとしたような感じを受けるようになります。
人生の出来事もほんのちょっとずらしてみれるようになれば、ネガティブな感情に囚われすぎず、もっと穏やかに受け止められるようになるのだろうと思いました。

「桜ほうさら」宮部みゆき著 PHP研究所 ソフトカバー ISBN978-4-569-81013-3

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2013年11月17日 (日)

本 「封印再度」

森博嗣さんの「S&Mシリーズ」の第5作です。
前作の「詩的私的ジャック」を読んでからだいぶ時間が経ってしまいました。
このシリーズの探偵役のひとりの犀川は興味のないことにはあまり頓着しない理系男というイメージがあります。
探偵役の相棒の西之園萌絵は犀川一途にアタックをかけるわけですが、あまり犀川はかまっていないような感じがありました(とはいえ萌絵のことを憎からず思っていることは伝わってきます)。
が、本作では珍しく犀川が萌絵に関することで動揺するところが描かれます。
それがけっこう新鮮な感じがしましたね。
読んでいる自分も動揺しましたが(笑)。
本作のトリックは森さんらしい非常にロジカルな仕掛けでありました。
一見不可能に思えることも物理的に説明可能であるトリックであるというところ森さんのミステリーの真骨頂ですよね。
本作はそれが特に洗練されているような印象を受けました。

「封印再度」森博嗣著 講談社 文庫 ISBN4-06-264799-0

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2013年10月 5日 (土)

本 「警官の血」

「北海道警」シリーズ等の警察小説で有名な佐々木譲さんの作品です。
本作は戦後から現在まで警視庁の警官となった親子三代の男たちを描く、言わば警察を舞台にした大河小説ですね。
佐々木さんは「制服捜査」等でも、制服のいわゆる駐在さんをとりあげていますが、本作でも下町の駐在警官を題材にしています。
この方の作品は「北海道警」シリーズなどもそうですが、警察の闇の部分にフューチャーしていきます。
元々「北海道警」シリーズは実際にあった道警の裏金問題からヒントを得たということですが、そういう警察の暗い部分を本作では描きます。
ただいわゆる巨悪を暴くといった物語になっているわけではありません。
警察という組織は、悪を相手にするということもあり、すべてが真っ白な活動であるというわけではありません(建前はそうでしょうけれども)。
白でもなく黒でもないグレーの部分もあるのでしょう。
正義を執行するためにグレーの領域にも踏み込まなければいけない、けれど正義のためという目的をもってグレーの領域に入ったとしても、いつの間にか黒くなってしまうこともある。
佐々木さんの作品はこのグレーの領域で黒くなってしまった者、白のままで留まる者、そういった男たちを描いていると思います。
本作はそういった男たちを親子三代の大河ドラマで描き、かつ戦後の警察史を合わせて読むことができる読み応えのある作品となっています。
上下巻合わせてボリュームはありますが、一気に読めること請け合いです。

「警官の血<上>」佐々木譲著 新潮社 文庫 ISBN978-4-10-122322-3
「警官の血<下>」佐々木譲著 新潮社 文庫 ISBN978-4-10-122323-0

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