「クリード チャンプを継ぐ男」 二人の父親
まさかの「ロッキー」の続編、というか、どちらかと言えばスピンオフかな。
タイトルにある「クリード」とは、ロッキーの人生の中でも最大のライバルであり、親友でもあるアポロ・グリードの名です。
「ロッキー・ザ・ファイナル」でシリーズは完結していたので、続編はいかがなものかと思ったのですが、ロッキー自身の物語ではないということなので、納得できました。
監督はこれが長編2作目のライアン・クーグラーという方。
全く知らない人なのですが、彼がスタローンに脚本を持ち込んで作られることになったということです。
「スター・ウォーズ」もそうですが、オリジナルの作品が多くの支持を受けて、それを思い入れがある人が作る側に回って、物語を紡いでいっているわけですね。
そういう人が作っているからか、物語自体はひねったところはなく、何ももっていない若者が努力によって栄光を勝ち取るというアメリカン・ドリームを絵に描いたような王道です。
最近はストレートな感動物語というのが少ないので、かえって新鮮で、安心して観ることができました。
主人公のアドニスは現代っ子らしく、若い頃のロッキーのようなハングリーさはありません。
かつてのロッキーはまさに生きていくために戦っていくというところがありました(まさに野獣の目)。
しかしアドニスはアポロの財産を引き継いでいるため、彼自身は生活に困ることはありません。
けれどなぜ危険を冒して、彼はボクシングに挑むのか。
戦うのか。
彼は、彼が何者であるかをはっきりさせるため、自らのアイデンティティを明らかにするために戦うのです。
アドニスは会ったことがない、偉大な彼の父親アポロに憧れを持っていました。
しかし、その偉大な父親に自分は追いつくことができるのか、追いつきたい、でも追いつけなくかったら・・・。
そういった不安に彼は悩んでいたのでしょう。
だから彼はアポロの子とはロッキー以外には言わず、本当の母親の苗字を名乗っていたのです。
それは彼自身が自らのアイデンティティを決めきれていないことであったのだと思います。
けれど、試合をするためにクリードの名を名乗るようになり、戦う中で彼はアポロの子であることに引け目を感じるのではなく、そういうこともひっくるめて自分自身であると自覚することができたのでしょう。
それはアポロの子であるから、ということではなく自分を認めてくれるロッキーやビアンカ、そしてチームの仲間たちの存在があったからだったと思います。
ちょっと話が外れますが、ラストのファイトでアドニスが相手の攻撃でまぶたを切った時、ドクターストップがかかりそうになる場面があります。
ドクターがアドニスに「指が何本見える?」と聞いた時、チームのカットマンがさりげなくアドニスに指の本数と同じ数タッチしてあげるんですよね。
おそらくアドニスはその時見えてなかったと思うのですが、カットマンは彼がどうしても試合をしたいだろうと思ってサポートしたのでしょう。
こういうさりげないシーンから、ロッキーをはじめチームのメンバーがアドニスにとって家族のような存在であるということが伝わってきます。
アドニスは彼を認めてくれる家族を得、自分のアイデンティティを感じることができたのだと思います。
最後の戦いで、彼はチャンピオンにかつてのロッキーのように食らいついていきます。
アポロ譲りのスピードのあるラッシュ。
ロッキーのような重いボディ。
アドニスにとってアポロも、そしてロッキーも父親のような存在かもしれないですね。
彼は二人の父親を引き継いでいく。
邦題のサブタイトルにある「チャンプを継ぐ男」」のチャンプとは、アポロとそしてロッキーの二人を指しているのでしょう。
中盤にある試合の中で2ラウンド分、ゴングからKOまでを長回しで撮っていたのはびっくりしました。
もしかするとどこかでCGで繋いでるかもしれないのですが、なかなか見たことがないシーンだったので驚きました。
本作のテイストは全体的に元々の「ロッキー」の雰囲気があるのですが、ところどころこのような現代的なカメラワークとかが入っているのですよね。
若い監督の意欲を感じました。
| 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (24)
最近のコメント