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2025年2月23日 (日)

「野生の島のロズ」さまざまなテーマをエモーショナルにまとめ上げた

本作は2回鑑賞しました。
1回目は一人で字幕版で、2回目は娘と一緒に吹き替え版での鑑賞です。
吹き替え版の方がよりエモーショナルな感じがして良かったですね。
ロズ役の綾瀬はるかさんの声がとても合っていて、次第にロズが感情を持っていく様子のが、声のトーンで丁寧に演じられていました。
加えて本作は映像表現がとても美しい。
最近の3D CGアニメは、以前のようないかにもコンピューターで作りました、というような表現から、ハンドメイドの絵のようなタッチが表現されたものに進化してきています。
生命感の溢れる島の自然や生き物がこのようなタッチで描かれているので、息吹きのようなものも感じられます。
これには実写映画やセルアニメとは異なる表現の可能性を感じます。
本作はさまざまな要素が盛り込まれていて、色々な視点で見ることができます。
それでいて詰め込み過ぎの印象もなく、非常にうまく構成されているように思えました。
まず一番、個人的に心に響いたのは、親と子、子育ての視点です。
ちょうど自分がまさに子育て真っ盛りだからかもしれませんが。
ロズとガンのキラリは当然ながら本当の親子ではありません。
ロズは初めは親とは何かは知りません。
キラリを育てながら、それを学んでいくのです。
これは自分自身でも感じることで、いろいろ失敗をしながらも、子供が生きていく姿を見ながら、親というものを学んでいくような気がしています。
そして、子育てにはタイムリミットがあります。
人間だったら、大学に入ったり、就職したりするときに子離れがあります。
ロズの場合は、毎年の渡りの時までに、キラリを一人前のガンとして育て上げなくてはなりません。
そして、その時が来たら子供は親元を離れていく。
キラリが見送るロズの側を飛び、堂々と旅立っていく姿を見せてくれるシーンは思わず涙しました。
自分の子供もそういう時が来るのだろうな、と。
キラリの生まれた時から、旅立つまでがフラッシュバックするシーンがありますが、とてもわかる気がします。
もう一つの視点は、皆の危機の時に一致団結できるか、ということです。
これについてはややファンタジー過ぎる感じもしなくもないのですが、今の時代を踏まえているように感じました。
地球が危機的状況にあることは皆わかっていますが、日々繰り返されるのは自分の都合を押し付けること。
これを続けていると共倒れになりかねません。
一旦は自分の主張は引っ込めて、全体のためにできることをやっていく必要がある。
もしかすると身を削らなくてはいけないこともある。
ロズたちが暮らす島は地球そのものと言えます。
寒冷化、もしくは熱帯化するような危機が訪れた時、地球に住む人々は、あの島に住む動物たちのように協力できるのか。
そういう問いを投げかけているように思いました。
このように多くのテーマを持っている本作、私の娘にも届いていたようで、鑑賞後は感じ入っていました。
良作のアニメーションだと思います。

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2025年2月11日 (火)

「ショウタイムセブン」仮面の奥に触れてほしい

あるラジオ番組に男から電話がかかってくる。
男は発電所に爆弾を仕掛け、それを爆破すると予告。
主人公のアナウンサー折本は彼を挑発してしまい、そして爆破は実行された。
そこから前代未聞の爆破テロ犯とアナウンサーのやり取りの生中継が始まる。
企画としては非常に面白くなりそうなプロットです。
しかし、見ている途中から座りが悪い印象があり、それが最後まで続きました。
なぜなんだろう。
一つは主人公、折本が最初から終始仮面をつけているようで、その内面が見えにくかったことにあるかと思いました。
テレビカメラの前で彼が犯人と交渉し、追及する姿は当然、公平性を貫くキャスターとしての仮面を被っていると思います。
マイクを切ったり、カメラ前を離れた時に見せる野心的な部分も彼の本来の姿でしょう。
しかしいずれにしても見ていて側からすると鼻持ちがならない部分があるキャラクターであり、共感性は乏しい。
しかし、ラストで明らかになるように彼自身も秘密を持っている。
当然本人はその秘密を知っているわけで、次第に事件が確信に迫っていく中で、内面で葛藤はあるはずですが、それはあまり感じられない。
ですので、最後の告白もやや唐突感がありました。
さらには最後の「楽しかった」という発言も、そのような彼の性格があまり触れられていなかった(彼はずっとキャスターとしての仮面を被っていたため)ため、これも突然な印象が拭えません。
主人公が秘密を持っているプロットはどの程度、それを主人公の行動の中で匂わせるかはとても難しいと思いますが、この計算があまりうまくいっていない印象でした。
演出プランの課題のような気がします。
個人的な印象ですが、阿部寛さんはキャラクターとして一つの軸が通った人物を演じると、映画全体の芯となるような存在感が出てくると思います。
本作はこの軸がとても曖昧で、そのため仮面のキャスターとしての存在感ばかりが強く出てしまったため、共感性のないキャラクターが物語の中心になってしまった気がします。
そのため見ている側としては共感をする人物が探し出せず、私の感じたような座りの悪さを感じてしまうのではないでしょうか。
面白くなりそうな人間関係も描けそうだったと思うんですよね。
長年コンビを組んでいた伊東との間にも何かしらのドラマを作れそうでしたし、犯人との間にも共感と後ろめたさのようなものが描けたように思います。
人物の描き方がもう一歩踏み込めたら、より魅力的になったような気がします。
プロットは面白そうだっただけに勿体無い。

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2025年2月 9日 (日)

「アンダーニンジャ」薄い福田印(いい意味で)

こちらで何度か書いているのですが、福田雄一監督の作品はどうも合わない。
独特のゆるいギャグが面白いという方もいると思いますが、合わないのですから仕方がありません。
今までも何度かトライしてはいるものの、やっぱり合わないということを確認して帰ってくるのです。
ですので、昨年末に公開された「聖☆おにいさん」もスルーしました。
出演者がすごかったので悩みましたが、結果的に他の方の評を見てみると、いつもと同様の感想になったと思います。
さて、その福田雄一監督の作品が立て続けに公開しました。
「アンダーニンジャ」です。
上記で延々と書いてきたように福田作品は合わないので、スルーするところですが、今回は劇場に足を運びました。
その理由はいくつかあります。
一つはなんと言っても、浜辺美波さんが出演しているということですね。
なんだかんだと、私は彼女のもはやファンと言っても良いので、なるべく見にいきたいわけです。
福田作品であったとしても。
割と清楚な感じの見かけの浜辺さんですが、今回は金髪の女子高生役。
そして福田監督ですので、変顔も連発させられています。
一部では「浜辺美波の無駄使い」と言われていますが、私もそう思います(笑)。
ですが、ちょっと天然な感じの浜辺さんも可愛いのでよしとしましょう。
あとは忍者ものであるということですね。
私は無類の忍者好き。
学生の頃から、山田風太郎の忍法帖シリーズを制覇したほどですので。
本作は現代社会に生きる忍者たちの戦いを描くということで、かなりアクションに気合が入っています。
主演は山崎賢人さんで、彼はアクションには定評がありますから、自ずと期待度は上がります。
期待に違わず、アクションは見応えありました。
近接戦闘はスピーディかつトリッキーで、現代的な忍者というコンセプトをわかりやすく表現したアクションでした。
全体的な尺の中でもアクションのシーンがかなり比重を占めていて、忍者好きとしては満足感がありました。
さて懸念の福田監督のギャグですが、座付き俳優的なムロツヨシさん、佐藤二郎さん中心に、相変わらずの見せ場がありました。
ただこれについてはやはり波長が合わず、そのシーンは拷問のようでした。
特に山崎賢人さんとムロツヨシさんの押し入れの件はきつかったです。
あれの面白さがどうにもわかりません。
ただし、全体的には本作はアクションパートの印象がかなり強く、福田印は相対的にかなり薄い印象です。
福田監督ファン的には物足りないところでしょうが、私個人としてはこれで十分くらいです。
久しぶりに福田監督作品で満足して劇場を後にすることができました。

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2025年2月 2日 (日)

「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」師を越えた化物に

先日再びアメリカ大統領に選出されたドナルド・トランプ。
良くも悪くも歴代の大統領の中でも個性的で独特な考え方を持つトランプですが、彼がどうやってあのような人物となったかを描くのが、本作です。
タイトルの「アプレンティス」というのは見習いという意味です。
本作で若き日のドナルド・トランプはロイ・コーンという弁護士からビジネスの世界で生きる術を学んでいきます。
その立場を「アプレンティス」というタイトルで表現しているのでしょう。
加えてかつてドナルド・トランプは「アプレンティス」というリアリティショーにも出演しており、そこでは出場者(見習い)に課題を出す方の役割で、その番組名にもかけています。
ロイ・コーンが教えるのは、自分の欲望に忠実であること、そしてそのためにはあらゆるものを利用し、そして敵は完膚なきまでに叩き潰すことです。
トランプは見習いとして優秀であり、ロイ・コーンの流儀をみるみるうちに吸収し、そして成功を手にしていきます。
彼は親や妻などの家族も利用し、使い物にならないと見るや兄も切り捨てます。
そしてロイ・コーンが同性愛者であることを知ると彼とは距離をとり、彼が病気で苦しんでいても彼を退けていきます。
ついにドナルド・トランプは師を越えて、より権力に取りつかれた巨大な怪物となっていったのです。
本作で目を見張るのは主人公ドナルド・トランプを演じたセバスチャン・スタンの演技でしょう。
セバスチャン・スタンといえば、マーベルのウィンター・ソルジャーことバッキーですが、それとは全く異なる印象です。
実物のトランプは仕草やしゃべり方に特徴がある人物ですが、彼のクセを非常によくつかみ、再現しています。
風貌はよく見れば全然違うのですが、見ているうちに本物のトランプに見えてくるほどです。
役者というのはここまで、完璧にクセなどを盗むのだと非常に驚きました。

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