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2024年12月28日 (土)

「正体」間違いだらけのこの世界で

藤井道人監督の作品にはなぜか惹かれてしまう。
全ての作品を見ているわけではないですが、最近の作品だと「ヤクザと家族 The Family」「最後まで行く」「青春18×2 君へと続く道」を見ています。
それぞれ語っているストーリーもジャンルも違うのですが、何か藤井監督らしさというものが共通しているように感じます。
それぞれの作品の主人公は背負ってしまったものがあります。
それは一人で背負うには重すぎるもので、主人公はみっともない姿になりながらも抗い続けます。
その抗い続ける過程で主人公たちの本質が掘り下げられていきます。
そしてハッピーエンドとは言えない物語ではありますが、読後感としては何かしら希望を感じるように終わるのが、共通しているようにも感じます。
人間性を深く描くこれらの作品をまだ30代の藤井監督が撮れるなんて驚きです。
本作「正体」はまさに抗い続ける男の物語です。
主人公鏑木は殺人事件で死刑が確定した男。
しかし彼は刑務所から脱走し、名前を変え、顔を変え、逃亡を続けます。
彼が背負っている状況は、一人の人間が背負うにはあまりに重すぎる。
しかし、彼は一人だけでそれに抗います。
彼は逃亡していく先で、さまざまな人に出逢います。
人を避け名前も風貌も変えていますが、彼らしさは出てしまいます。
彼と接した人々は、彼の本質に触れ、彼が殺人事件の犯人だと知っても、彼を助けようとします。
彼らが希望です。
藤井監督の作品は見ている時は追い込まれていくようなとても辛い気持ちになります。
主人公に共感し、彼らが背負っているあまりに過酷なものを感じてしまう。
ただ彼らと一緒に争い続ける中で、希望の光も感じます。
本作のラストで彼を追い続けた刑事が鏑木になぜ逃亡を続けたか問いかけます。
鏑木は「この世界を信じたいから」と答えました。
それこそが希望です。
現実世界も非常に辛いことも多いですが、それでもその中に希望を見つけることはできるように思います。
そんな希望の輝きを印象付けてくれるのが、藤井作品であるように思いました。

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