« 「室井慎次 生き続ける者」透かし見える商売っ気 | トップページ | 「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」丁寧に計算された構成 »

2024年12月14日 (土)

「六人の嘘つきな大学生」残った棘

大手IT企業の最終面接に残った六人の就活生。
彼らはその過程で絆を育んでいったが、最終面接で次々と明らかになっていく彼らの過去の暴露から、脆くも関係性が崩れていってしまう。
自分自身も採用の面接をしたりすることがあるのだけれども、就活生は自分のいいところを見せようとするものです。
それは当たり前で、就活に限らず、特に知らない人に対しては自然とそうなってしまうのが人間です。
就活生もしっかりと準備をしてくるので、採用する側はより深く深く質問をしていき、少しでも相手の本質を引き出そうとするわけなので、就活はある種の心理戦とも言えるかもしれないですね。
心理ミステリーとして就活という場はいい選択だと思いました。
人には裏表があるということ、そしてさまざまな伏線が回収されていくということで、私は2007年の「キサラギ」という作品を思い浮かべましたが、本作はそれを演出した佐藤祐市監督なんですね。
ですので、その辺りの伏線回収などは上手です。
中盤の彼らの過去が暴露されていくところは、見ていてもしんどいところがありました。
その前の事前面接や自主的なワークショップの彼らを見ているとしっかりしている子たちに見えましたが、それでもまだ彼らは社会人になる前の子供ともいえます。
なので、予期せぬ過去が晒された時、彼らは一様に動揺します。
この動揺っぷりが見ていて苦しい。
そこまで彼らを追い込まなければいけないのかと。
人の裏の醜さを暴露していく様子は、あまり邦画にはない感じだなと思いました。
どちらかと言えば韓国映画(私は苦手)のようなドロドロとしたような印象を受け、居心地の悪さを感じました。
しかし、終盤にかけては彼らの本当の本当の姿も明らかにされ、救われます。
この辺りの伏線回収と安心感は名作「キサラギ」の監督ならではと思いました。
中盤の追い込みがあるからこそ、終盤の救いがより印象的になります。
ただ気になったのは、真犯人の動機です。
動機は終盤に明らかになりますが、個人的にはここまでする動機とは思えないところもありました。
彼にとっては「それほど」のことだったのかもしれませんが、そうなってしまう彼のバックボーンはもう少し語られてもいいかと思いました。
救いがあると書きましたが、ある登場人物にだけは救いはありません。
見終えた時には救いはありそうな印象にもなるのですが、けど改めて考えると彼の人生は救われなかった。
その点が可哀想で、ちょっと棘が残ったような気分になったのも確かです。

|

« 「室井慎次 生き続ける者」透かし見える商売っ気 | トップページ | 「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」丁寧に計算された構成 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 「室井慎次 生き続ける者」透かし見える商売っ気 | トップページ | 「アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師」丁寧に計算された構成 »