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2024年8月10日 (土)

「フェラーリ」夫と妻の物語

マイケル・マン監督らしく骨太な見応えがある作品となっています。
フェラーリと言えば、最近の映画だと「フォードvsフェラーリ」を思い浮かべます。
実はマイケル・マンは「フォードvsフェラーリ」では制作総指揮を務めています。
マンはフェラーリに惹かれているのでしょうか。
「フォードvsフェラーリ」でも本作の主人公であるエンツォ・フェラーリは登場していて、経営危機に陥っていた際にフォードから買収を持ちかけられた時に、契約直前で破談をしたところが描かれます。
これは、フォードがレースに反対した場合はフェラーリはレースから撤退するという内容が契約にあったためと言われています。
このエピソードからもエンツォ・フェラーリのレースに対するこだわりが感じられますが、まさに本作はエンツォのレースに対する情熱が描かれます。
「フォードvsフェラーリ」でも登場人物は魅力的に描かれていましたが、本作は主人公エンツォの人物を深く掘り下げます。
そこが本作の骨太感につながっていると思います。
エンツォは心に深い闇を抱えています。
それは愛息ディーノが夭逝してしまったことの喪失感
でした。
エンツォはレーサーであり、技術者でした。
何か困難なことがあったとしても、分析し、解決方法を考え、実践していく。
そうして様々な危機を乗り越えてきました。
しかし、ディーノが患った難病に対しては為す術がありません。
彼は敗北したのです。
彼の敗北感が彼をレースにのめり込めさせます。
レースは勝ち負けがはっきりしている。
そして勝利は努力をした者にもたらされる。
彼は息子を失った敗北感をレースで取り戻そうとしていたのかもしれません。
エンツォは息子の死から逃れるためにレースだけでなく、妻ラウラから距離を置き、別の女性リナとの間に子をもうけます。
エンツォはフェラーリ社においてレースと技術的な部分を見ていますが、ラウラは経理など事務系を管轄しています。
彼らは会社においてはビジネスライクな関係で、うまく分担できているように見えますが、夫婦関係としては全くうまくいっていません。
エンツォは自分の喪失感を無意識のうちにレースと他の女性との家庭で満たそうとしていますが、ラウラ自身は喪失感を抱えたままです。
本来は夫とそれを分かち合いたいのに、それができないことがラウラを苛立たせます。
優勝したレースで、フェラーリのレースカーが観客を巻き込んだ大事故を起こし、マスコミからエンツォは非難を浴びます。
その危機を救ったのはラウラでした。
エンツォを鼓舞し、マスコミを封じ込めるための資金を提供しました。
エンツォは喪失感のため、家庭から、ラウラから逃げましたが、ラウラは危機的な状況でも夫を支えながら立ち向かいます。
本作はエンツォ・フェラーリの物語でありながら、ラウラ・フェラーリの物語でもありました。

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