「夏目アラタの結婚」見るものを思い込みを裏切る
こちら試写会で鑑賞です。
主人公夏目アラタは児童相談所の職員ですが、児童との相談を重ねるうち、連続殺人犯からある秘密を聞き出さなければならなくなりました。
その殺人犯、真珠と面接をするも、彼女は得体がしれなく、その本音が引き出せません。
そのため、成り行きで彼女にプロポーズをしてしまいます。
<ここからネタバレあり>
アラタが真珠と初めての面接をした時、彼女がつかみどころなく、何を考えているかわからない印象をアラタも我々観客も受けます。
アラタのモノローグで、真珠のことをトラップをさりげなくかけてくるため、非常に頭が良いと評しています。
ここに本作最初で最大のトリックがあると思いました。
彼女の脈絡のない行動を見ていると、そこに実は裏があるのではないかと勘ぐりたくなります。
そこにはこのようなシチュエーションにふさわしいキャラクターを、見ている人たちはイメージしているのではないでしょうか。
そうです、「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクターです。
ご存知のように彼は非常に頭が切れ、獄中に居ながらも、さまざまな謎を明らかにします。
また彼は檻の中から人々の心理を操ります。
そして真性のシリアルキラーです。
見ている側は知らず知らずのうちに真珠にレクターを重ね合わせ、彼女の行動・発言に全て裏があるのではないか、と考えます。
最後に明らかになりますが、彼女は最初から最後までまっすぐ出会ったのですね。
いつか、自分のことをちゃんと見てくれる人が、救い出してくれる、と思ってきた。
ただ、それだけ。
舞台挨拶の時、上映前だったのではっきりとした言い方ではなかったのですが、真珠を演じた黒島結菜さんが「真珠は最初から最後まで変わらない部分があるということを大事に演じた」とおっしゃっていました。
その時は、その言葉の真意がわからなかったのですが、映画を見終わった後に、わかりました。
人は他人を何かしらのレッテルを貼ってみてしまいがちです。
劇中でも真珠は「憐れんだ目で見るな、かわいそうって目で見るな」と言います。
そして「アラタだけが、お前は人殺しだ、と本当の自分をわかってくれた」とも言います。
彼女をサポートする弁護士は、彼女を保護されるべき人という目で見ます。
それもレッテルです。
そして彼女はレクターのような人物である、という見方もレッテルでしょう。
本作は、人は知らず知らずのうちに、レッテルを貼りながら人を見てしまうということを使った、メタなトリックがあると思ったわけです。
これはもう一度、見てみると真珠の行動・発言を貫いている彼女の気持ちが浮かび上がってくるような気もします。
同じく舞台挨拶で堤監督が、本作は今までの作品の中で最も編集に苦労したとおっしゃっていました。
見終わるとそれも理解できます。
ちょっとした表情を変えたり、カットを増やしたり、減らしたりするだけで、真珠の一貫性は保てなくなりそうなバランスの難しさがあるような気もします。
本作はサイコミステリーだと思わせておいて、ボーイミーツガールなラブストーリーでした。
真珠は部屋に入ってきた時から、アラタが自分を救い出してくれる王子様であると確信しました。
全てが見事に回収されて圧巻のラストであったと思います。
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