「ディア・ファミリー」それで、次はどうする?
娘を救いたいという一途で諦めない気持ちが、やがて多くの人を救っていく。
バルーンカテーテルという医療機器があるとはこの映画を見るまで知りませんでした。
血が流れにくなった血管を血管の内側から細いバルーンで広げて、血を流れやすくするものです。
この機器は多くの人を救っています。
本作は日本人の体格にあったバルーンカテーテルを開発した男とその家族の物語です。
主人公宣政は小さなプラスティック製品を製造する町工場を経営しています。
彼の次女、佳美は生まれつき心臓に疾患を抱え、20歳まで生きられないと告げられます。
どの医療機関からも治療は断られた結果、宣政は医療知識はありませんでしたが、自力で人工心臓を開発を決意します。
しかし、その開発は困難を極めました。
なにしろアメリカの最先端の大学ですら、成功していない技術なのです。
それでも宣政は諦めずませんでした。
試行錯誤の末、人工心臓のプロトタイプはできますが、ここに大きな壁が立ちはだかります。
医療機器ですから、実用化をするには臨床試験は欠かせません。
しかし、そのためには莫大な資金がかかり、大学病院の協力が欠かせません。
その協力が得られず、人工心臓は実用化できません。
それはすなわち、娘の佳美を救えないということを意味します。
しかし、佳美は自分の命はいいから、父親の培った技術を使い、多くの人を救ってほしいと言います。
娘の命は救えない。
しかし、娘の願いは叶えられるかもしれない。
宣政は改めてバルーンカテーテルの開発に着手します。
人工心臓の開発時のノウハウはあるにせよ、この開発も困難の連続です。
宣政は娘の願いを叶えられるのでしょうか。
佳美の家族は彼女の命を救いたいと思い、一致団結して宣政の活動を支えます。
それでも彼らの前に多くの困難が立ちはだかります。
その時、彼らはそこから逃げず、前向きにこう言います。
「それで、次はどうする?」
いくらやってもうまくいかないことはあります。
その時、そのまま諦めるか、それとも他の方法をトライしてみるか。
娘の命が救えないとわかった時、それは完全に目的を叶えられないとわかった時ですが、その時彼らは真の目的は佳美の思いを叶えることだと考えを変えることができました。
彼女がいたからこそできたことを成し遂げる。
それは彼女が生きたことを残すことにもなるのでしょう。
このように本当に叶えたいことはなんなのか、ということまで考えられることはなかなかできません。
彼ら家族はあくまで前向きに自分たちが直面していることと対峙することができました。
本作が素晴らしいと思ったのは、彼ら家族の思いが、彼らのうちだけにとどまっているものではなかったからです。
宣政が一緒に人工心臓を開発した大学の研究員たちは、プロジェクトが終わった時、それぞれ別の道に進みます。
けれど、やがて宣政が作ったバルーンカテーテルを支持し、それを活用して、多くの人を救います。
そして、本作の冒頭で宣政にインタビューをしていた女性。
物語の最後に彼女も宣政のカテーテルで命を救われた患者であったことが明らかになります。
おそらく宣政と人工心臓を開発した元研究員が救った女性だと思われます。
亡き娘の思いは消えず、広がって、多くの人の命を救い続けていることが伝わってきます。
ラストの一連の描写は、脚本も演出も見事であったと思いました。
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