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2024年7月 4日 (木)

「ルックバック」背中を見ろ!

子供の頃、絵を描くのが好きだった。
クラスの中に一人はよくいる絵の上手い子だったと思う。
クラスの文集のイラストを頼まれたり、教科書の隅にパラパラ漫画などを描いたりしていた。
友達からも上手いと言われたりしていたと思う。
将来漫画家になれたらいいな、と思ったりもした。
けど、クラス変えをした時、もっと絵の上手い子がいて、敵わないなと感じた。
本作を見てそのことを思い出した。
絵を描くにしても、歌を歌うにしても、スポーツをするにしても一緒にやる仲間がいれば心強い。
けれど、そこには裏腹に嫉妬もある。
評価されれば天にも昇る気持ちになるし、負けたと思った時は地獄に落ちた気分になる。
主人公藤野が京本の実力を見せつけられ筆を折る場面、逆に京本にファンだと告げられた雨の日、スキップしながら家路に着くという描写が表す気持ちは、好きなことに邁進するからこそ感じてしまうものなのだろう。
その苦しさから逃れたくてやめる人も多いだろう。
けれど藤野も京本も黙々と机に向かった。
楽しさも苦しさもありながら。
この作品は藤野が机に向かっているところを背中から写すカットが幾度もある。
タイトルの「ルックバック」は後半に「背中を見ろ」という言葉として出てくるが、背中は本作のキーワードだ。
黙々と机に向かう姿は一途に絵に向き合う気持ちを表している。
というよりこれしかない、という気持ちかもしれない。
黙々と漫画に向き合った藤野はある出来事が起こった時に自分の過去を振り返り(ルックバック)激しく後悔する。
しかし「背中を見ろ」というキーワードを受け取った藤野は、歩んできた道は間違ってはいないと許される。
ラストはずっと藤野の背中が映し出されるが、それは過去を自分で認めた上で、友の思いを受けて再び絵を描くことに向かう覚悟が表されたように感じた。
本作は非常に短く、1時間程度。
そうとは思わせない密度のある作品であった。

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