草彅剛演じる柳田格之進は故郷である彦根藩を追われ、娘お絹と共に江戸で長屋暮らしをしていた。
日々、身は浪人暮らしとなろうとも、格之進は武士らしく清廉に生きていた。
遊びなど一切しない格之進が唯一嗜むのが碁であった。
その碁は、彼の生き様を表しているようで、その打ち筋は精錬であり、実直だった。
彼が故郷を追われたのは、その実直さ故でもあった。
格之進はその実直さから殿様に重用されていたが、その几帳面さは同僚たちの細かい不正にも目を瞑ることができなかった。
そんな折、城での碁の手合わせの中で、彦根藩随一の碁の名手柴田兵庫と勝負し、その結果刃傷沙汰が起こる。
それを根に持った兵庫が格之進を冤罪に陥れ、彼は藩を追われることとなったのだ。
加えて、格之進は兵庫との不貞を疑われて、自害してしまう。
そのような出来事があっても彼の生き方は揺るがない。
武士らしく、実直で清廉であること。
それは彼の生き方を規定している。
故郷を追われ、妻を失っても、彼は自分の生き方が間違っているとは微塵も思わない。
藩を追われるところは劇中では描かれていないが、彼は自分の主張はしつつ、それが受け入れられないとわかると、静止を振り切って藩を飛び出してきたのだろうと思われる。
一人娘がいるにも関わらずそのような行動に出たのは、自分は間違っていないという思いが強かったのだろう。
やがて江戸で暮らす中で、碁を通じて商人の萬屋源兵衛と親交を結ぶようになる。
そこで番頭見習いで奉公する弥吉と娘のお絹は互いを憎からず思うようになっていく。
しかし、そのような日々の中である事件が起こる。
源兵衛が持っていた50両が紛失したのだ。
その時、彼と一緒の部屋にいた格之進が疑われる。
それに対して格之進は激昂する。
格之進は劇中、ずっと寡黙であり静かな男であった。
しかし、この時の激昂はまるで別人のような様子だった。
清廉潔白であることを常に生きてきた格之進にとって、この疑いは自分自身を否定されるようなものであったのだろう。
激昂した彼は、弥吉に対し、もし疑いが間違っていたならば、自身と源兵衛の首を差し出せと言う。
おりしも、格之進に冤罪をなすりつけ、その後彦根藩を出奔した兵庫が姿を現したという報も受ける。
お絹は自らが吉原に行き50両を用立て、仇討ちに旅立つ格之進を送る。
娘を売ってまで、自らのプライドを通そうとする格之進には狂気すら感じる。
清廉潔白であり、実直であることは素晴らしいことではあるが、そのために融通が効かなくなることにより、周囲の人を苦しめていく。
お絹は父の性格を知った上で愛しており自ら決断するのだが、友人とも言える関係になった源兵衛や、娘が愛する男に対しても苛烈な態度で望むのは常軌を逸しているようにも見える。
結果、格之進は見事仇討ちを果たし、娘の身売りの期限の大晦日にまで吉原に戻ろうとするも間に合わなかった。
なくなっていた50両は煤払いの際に見つかり、格之進の無実は証明された。
そのため格之進は源兵衛と弥吉の首を差し出せと詰め寄る。
源兵衛は跡取り同然の弥吉を庇い、弥吉は父親のような源兵衛を救おうとする。
しかし、格之進はそのような二人の言葉に耳を傾けず、刀を振りかぶる。
そして、振り下ろされた刀が切ったのは二人の首ではなく、源兵衛と格之進が勝負をしていた碁盤であった。
兵庫との仇討ち勝負の際、格之進はかつて藩で彼の実直さにより不正を暴いた同僚たちのその後を聞く。
彼らは皆、職を奪われ、苦しい生活を送っていた。
やったことは悪かったかもしれないが、そこまで追い込まれなくてはいけなかったのか。
初めて格之進は自分自身の生き方に疑問を持つのであった。
彼は源兵衛と弥吉の首を切らなかった。
以前の自分の生き方に不動の自信を持つ格之進であればあり得なかっただろう。
彼の生き方は碁盤のように四角四面で固いものであった。
彼は自らの生き方を象徴するものを、自ら断ち切った。
これから、彼の碁の打ち筋も変わっていくのかもしれない。
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