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2024年3月31日 (日)

「アーガイル」芸達者によるトリック

「キングスマン」のマシュー・ヴォーン監督の新作のスパイ映画ということで期待して行ってきました。
スパイ映画というのは、どんでん返しつきものだったりしますが、本作について二転三転どころか五転六転くらいしているんじゃないかという感じですね。
まさにジェットコースターに乗せられて、いいようにストーリーに振り回されている感じがしました。
主人公はスパイ小説でヒットを出し、注目を浴びている女性作家エリー。
しかし彼女は自身が書いた小説が、現実の出来事を反映し過ぎているということで、謎の男たちに狙われてしまいます。
そのピンチから救い出したのが、エイダンというスパイの男。
この男は果たして本当に味方なのか、そしてなぜエリーは命を狙われなければならないのか・・・。
エリーを演じるのはブライス・ダラス・ハワードで、いい具合なおばさんとなっています(これがまたどんでん返しに繋がる・・・)。
そして彼女を救うエイダンを演じるのが、サム・ロックウェルで彼もまたいい具合。
というのも、彼が演じるエイダンは凄腕のスパイということなのですが、見かけがそういうふうに見えない。
凄腕のスパイというと、どうしてもジェームズ・ボンドかイーサン・ハントのような完璧な男のイメージがありますものね。
実際、エリーが書いている小説の主人公がイメージとして劇中でも登場しますが、それを演じるのはヘンリー・カヴィルでまさに「スーパーマン」。
エイダンが本当に凄腕なのか、そもそも味方なのか敵なのか、この辺りがどうにも掴みきれない。
よくミステリーなど見ていても、この配役だとこういうキャラじゃないかと類推することがありますが、サム・ロックウェルだとこの辺りがどうとでもなるので、予断を許しません。
これはブライス・ダラス・ハワードについても同じで、彼女の演技の幅の広さこそが、一つのトリックとなっているのです。
全く展開を予想することができず、まさに乗せられながら最後まで見ることができるという点で、最高のエンターテイメント作品であると思いました。
マシュー・ヴォーンというと戦闘シーンを血生臭いアクションとして取るのではなく、ダンスでも撮っているかのように優雅さも漂うようなヴィジュアルで見せてくれるところが印象的です。
本作でもまさにダンスのようなシーンもありますし、驚きのフィギュアスケートを利用したアクションもあり、見せ場を作ってくれています。
この辺は彼らしさを存分に楽しめるところですね。

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2024年3月30日 (土)

「コヴェナント/約束の救出」自己との戦い

アメリカ軍のアフガンからの撤退前、彼らはアメリカが支えるアフガン政府の脅威となるタリバンの勢力を削ごうと躍起になっていました。
しかし、タリバンは地元の地の利を活かし、なかなかアメリカ軍に尻尾を掴ませません。
タリバンを叩くには地元の情報を得ることが欠かせないわけですが、そこで地元でリクルートする通訳が重要となります。
彼らはタリバンからすれば祖国を売る裏切り者でありため、アメリカ軍は彼らを雇う時の条件として、アメリカへ暮らすためのビザの提供を行います。
主人公の一人アメリカ軍人のキンリーはまさにアメリカが守る自由を信じる典型的な軍人です。
彼はタリバンの爆弾製造工場を探すという任務についていますが、そのためにアーマッドという通訳と組みます。
アーマッドは非常に知的であり、ただ通訳をするだけでなく、得られた情報をどう解釈すべきかという点でキンリーに協力をします。
初めはそれをキンリーは鬱陶しく感じ、またアーマッドもアメリカ軍人に対して素直にものを聞くこともなく、両者の関係性には最初は緊迫感があります。
しかしキンリーはアーマッドの情報と解釈により、危機を脱することにより、次第に信頼していきます。
またアーマッドもキンリーの行動に嘘がないことに気づき、彼もまた信頼していきます。
後々彼らの行動からもわかりますが、彼らに共通しているのは価値観であると思います。
目の前にいる危機に面した者を救わなければならないという正義感。
借りは返さなくてはいけないという誠実さ。
これらが彼らに共通した価値観です。
生まれもそれまでの人生も全く異なりますが、それが二人の共通点なのです。
まずアーマッドが彼らに共通する価値観の危機に面します。
タリバンの罠にハマり、キンリーの部隊は、キンリーとアーメッドを残して全滅。
そしてキンリーは自分では歩けないほどの重傷を負ってしまいます。
キンリーを置いていけば、アーメッド自身は確実に助かることができる。
しかし、彼はキンリーを手押し車に乗せ、100キロ以上も離れたアメリカ軍基地目指して、徒歩で踏破します。
途中いくつもの危機がありますが、逡巡しながらもあーメッドは彼自身の信条を守り通します。
無事キンリーは自国に帰国し、平和な日々を過ごしますが、アーメッドがアフガンを脱出できず、今もなおタリバンに裏切り者として追われていることを知ります。
アメリカで手を尽くすものの、彼を脱出させるのは叶いません。
最後の一手は、キンリー自身がアフガンに再び赴き、脱出の手引きをすること。
彼もまた逡巡します。
妻や子たちとの平和な日々を捨て、再び戦場に向かうのかと。
彼は命を救われたことによる呪いにかかったとも言えます。
しかし、彼もまた自らの心情を守り、アーメッドを救うためにアフガンに向かうのです。
本作は単なる友情物語というのではなく、自らの信じる価値観を自ら裏切るのか、否かという自己との戦いを描いているように思いました。
敵はタリバンではなく、逃げようとする自分自身なのです。
本作の監督はガイ・リッチー。
題材的には彼らしくなく、意外なテーマを選んだなと思いました。
が、彼らしいカットもいくつかありました。
キンリーが重傷を負い、痛みを和らげるためにアヘンを打たれた時の彼の回想シーンは、ガイ・リッチーらしいイメージのカットの重ね方がありました。

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2024年3月20日 (水)

「映画ドラえもん のび太の地球交響楽」生命讃歌

今年の「ドラえもん」劇場版は音楽がテーマ。
宇宙や恐竜などの冒険がテーマになることが多い「ドラえもん」シリーズですが、音楽がテーマというのは珍しい印象です。
わかりやすく冒険が描けるわけではないので、なかなか劇場版としてエンターテイメントと仕上げるのが難しそうだと思いましたが、なかなかどうして非常に楽しめる作品に仕上がっていました。
音楽はとても原始的でありながら、人の生命力が表現される芸術であると思います。
原始的であるというのは、この芸術はとても身体的であるからだと思います。
ただ何かを叩んでリズムを刻むというのも音楽ですから。
今回の作品で最終的にドラえもんたちが戦うのは、宇宙の星々を飲み込んでいくノイズという存在。
ノイズは生命が奏でる音楽(ファーレ)が苦手であり、ドラえもんたちは音楽で立ち向かっていきます。
音楽はまさしく生命の象徴。
ドラえもんたちが音楽を演奏しながらノイズと戦っている時に、地球上の人間たちが日常の営みから奏でられる音が重ねられていきます。
お料理を作るときの包丁の音。
家を建てる時のノコギリの音。
人が、生命が生きている時に奏でる音、音楽が、すべての生命を飲み込もうとするノイズに対抗していくのです。
まさに生命讃歌です。
ドラえもんたちがノイズと戦う時の音楽とその映像表現も見事で、なかなか映像化しにくい音楽をダイナミックに表現できていたと思います。
ストーリーとしても凝ってい益田、
のび太たちは共にノイズと戦うことになるミッカという異星の少女と出会います。
ミッカたちはノイズに滅ぼされた星から宇宙船で逃げ出してきて、地球の近くに長年隠れ住んでいた種族です。
古代にその種族は一族を途絶えさせないために、ミッカの妹を地球に送り込みました。
彼女は古代人とやがて結ばれ、そしてそこから地球にもファーレ(音楽)が根付いていくのです。
そしてその子孫である歌姫ミーナも、のび太やミッカに手を貸すことになります。
連綿と続いていく生命、そして音楽。
これもまた生命讃歌ですね。
「ドラえもん」の映画として見ると、ややドラえもんとその秘密道具の印象は薄く、そこを期待した方からすると少々物足りないところもあるかもしれませんが、いつもと異なる冒険を描こうとする心意気は私としては支持次第です。

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2024年3月16日 (土)

「マダム・ウェブ」慈愛の心の覚醒

興行成績も評判もあまりよろしくない本作ですが、個人的には結構楽しめました。
そもそも「マダム・ウェブ」が属するSSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)は今までも何作品も公開されていますが、どれもピンとくるものはあまりなかったので(「モービウス」は最悪だった)、期待度があまり高くなかったというのもありますが。
本作の主人公はある特殊能力に目覚める救命士のキャシー。
彼女はいずれマダム・ウェブと呼ばれるヒーローとなるわけですが、その能力は非常に変わっています。
彼女が身につける能力は未来予知未来予知。
キャシーはいずれ起こる出来事を事前にヴィジョンとして見ることができるようになるのです。
しかし、能力はそれだけで、常人離れしたパワーがあるわけでもなく、壁を這うことできるわけでもなく、銃弾を防ぐような皮膚を持っているわけではありません。
銃で撃たれたり、ナイフで刺されば、血を流して死んでしまうのです。
事実、マダム・ウェブはマーベルヒーローの中では戦闘能力としては最弱とも言われています。
しかし、だからこそ展開が面白い。
戦闘能力は常人並みで、未来予知能力は覚醒したばかりで使いこなすとまではいっていない。
敵となるのはスパイダーマンのような能力を持つエゼキエルという男であり、彼からの執拗な攻撃を避けるにはそれこそ知恵と勇気しかありません。
そして彼女がヴィジョンでエゼキエルに殺されてしまう様子を目撃してしまった三人の少女たちとの絡みも面白い。
ティーンの彼女たちはそれぞれ個性的であり、まとめるだけでも手がかかる上に、キャシーの言うことを全く聞く気がない。
彼女たちの行動がトラブルを引き寄せ、よりピンチに陥ってしまうストーリーはなかなか惹かれるものはありました。
このようにトラブルメーカーたちと一緒に逃避行を続け、かつ攻撃能力がないヒーローであるため、ピンチはなかなかハラハラするところがあります。
これ、面白くないですかね?
キャシーは幼い頃に母親に捨てられたという思いが強く、人と関わりたくないというタイプであったと思います。
しかし、一連の逃避行の中で、母親の本当の思いに気づくことができました。
3人の少女たちもそれぞれ、居場所を失っています。
母親の思いを知ったキャシーは3人の少女たちに対して、母親のような思いを持つようになったのかもしれません。
他人と関わりたくなかったキャシーは、人を強く思う慈愛の心も能力と共に覚醒したのでしょう。
それがラストバトルでの新たな能力(幽体離脱)の覚醒につながったのでしょうか。
マダム・ウェブは未来予知をすることで、より良い選択肢を選ぶことができます。
異なる選択肢を選ぶということは、新たなユニバースを生み出す行為とも言えます。
マルチバース化が進むMCU、SSUにおいて今後重要な役割を背負う可能性もありますね(とはいえ、興行が悪いのでどうなるかはわからないですが)。
最後に、キャシーの同僚の男性がベン・パーカーであることをあとで知りました。
かのスパイダーマンに登場するベンおじさんですね。
MCUのスパイダーマンにおいてはすでにベンおじさんは亡くなっていますが、ベンおじさんとピーター・パーカーの絡みはいずれ見てみたい気もします。
また、キャシーがヴィジョンで予知した3人のスパイダーウーマンたちとスパイダーマンの共演も期待したいです。

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2024年3月10日 (日)

「哀れなるものたち」かくあるべしを超えた存在

独特の世界観であり、エログロ的な描写も躊躇なく盛り込まれているため、個人的には得意なテイストではなかったものの、非常に惹きつけられるところもありました。
主人公のベラは天才的な科学者によって生み出されました。
自殺した女性の体に彼女が宿していた胎児の脳を移植することによって生み出された人造人間なのです。
そのため肉体は成人女性のままでありながら、精神は赤子というチグハグな状態なのがベラなのです。
通常、人は肉体の成長に合わせて精神も成長していきます。
肉体は一つの制約でもあり、その制約により世界は限定されています。
赤ん坊の頃は子供にとっての世界には親しかおらず、そこから成長していくに従い、活動範囲が広がって世界は拡張していきます。
また出来ることということも成長に合わせて可能性が広がっていきます。
出来ることが広がり、世界が広がっていくにつれ、人は精神も成長していくのです。
ある意味、やることが制約されるということで肉体は精神にとって檻とも言えるわけですが、人は成長していきながら肉体と精神が相互に関わりながら徐々に拡張していくわけですね。
ベラの場合はそれが非常にアンバランスになっているのです。
このことがわかってたからか、彼女を生み出した科学者はベラを自身の屋敷に閉じ込めています。
しかし子供らしく世界を見たいという好奇心を持つベラは子供のような肉体的な制約はなく、彼女にとっては我が家を檻と認識していきます。
いくら親代わりの科学者が止めようと、その制止を振り切ることができる肉体を彼女を持っているからです。
彼女の強い好奇心を知り、科学者は彼女を束縛から解き放ちます。
人は肉体的制約があるからか、成長していく過程で、かくあるべきという常識、規範を自然と身につけます。
しかし、ベラはその規範を身につける前に広い世界に漕ぎ出しました。
彼女はそういった制約から自由であり、だからこそその行動は突飛なものと周囲の目には映ります。
なぜならば周囲の人々(特に彼に関わる男性は)こうあるべきという規範・常識に凝り固まったものの見方しかできないからです。
ベラはそういった男たちの常識を超えた行動をとる。
故に彼らは彼女に翻弄されます。
本作はフェミニズムをテーマにした作品と言われますが、フェミニズムに限らず、かくあるべしとした常識にとらわれない個性のありようを語っているように感じました。

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