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2023年8月16日 (水)

「トランスフォーマー/ビースト覚醒」エモーショナルと派手さのバランス

「トランスフォーマー」シリーズも早いもので第7作目となリマス。
第1作目を見た時は自動車がロボットにガチャガチャと変形するCGに度肝を抜かれましたが、その後はこの手の映像も見慣れてしまい、新鮮味が薄れてしまいました。
シリーズを追うごとにストーリーもスケールアップしていき、いつしか人類置いてけぼりの大風呂敷を広げた状態となり収拾がつかなくなってきた感もありました。
そうなってくるとマイケル・ベイの迫力のある演出もやや大味にも感じられ、食傷気味となったのも事実です。
これは皆が持った印象だったのか、前作ではリブート的な位置付けで「バンブルビー」が公開されました。
こちらの作品はマイケル・ベイ的な派手な演出は抑えられ、少女とバンブルビーの間の友情が描かれるハートウォーミングなジュブナイルとなっていました。
これはこれで非常に新鮮で、新たな「トランスフォーマー」を見せてくれたと思います。
そして本作「ビースト覚醒」ですが、タイムライン的には「バンブルビー」の後のようです。
80年代的であった「バンブルビー」から本作は90年代的な要素を持った作品になっています。
「バンブルビー」は少女とバンブルビーに焦点を絞ったため、従来の「トランスフォーマー」的な派手なアクションは少なかったと思いますが、本作はリブート版の人間とオートボットの繊細な関係性と従来路線の派手さのバランスを上手に取ろうと苦労した感じがしています。
加えて新しい要素として動物型のトランスフォーマーも登場し、描くべき要素は格段に前作から増していると思います。
その苦労は概ね成功しているのはないでしょうか。
主人公ノアとオートボットミラージュの関係性は力を入れて描かれており、クライマックスでの二人のコラボレーションへの納得性を高めています。
後半のユニクロンと人間、オートボット、マクシマルとの戦いは従来の「トランスフォーマー」的な派手さがあり、映像的に見応えありました。
今までの作品でもラストバトルでは、どうしても人間が置いてきぼりになりがちなのを、ノアがミラージュを装着することで回避するというのもなかなかのアイデア。
これがクレジットの時の映像に繋がるというのも興味深かったです。
本作の制作にはトランスフォーマーを販売しているハズプロが入っていますが、ここの主力商品にG.I.ジョーがあります。
「G.I.ジョー」については今までも何度か映画化されていますが、本作で「トランスフォーマー」とクロスオーバーする可能性が示唆されています。
これはマーベル的なユニバースを狙っているということでしょうか。
また風呂敷を大きくして、畳めなくなってしまうという懸念はありますが、期待もしてしまいますね。

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「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」全てが明らかになるのは後編

「ミッション・インポッシブル」シリーズの第7作目ですが、トム・クルーズ出演作の中でも最大の制作費をかけて作られたそう。
それだけにボリュームもかなり大きく、本作は前編となっていますが、それでも2時間40分程度の長尺となっています。
「ミッション・インポッシブル」はスパイ映画ですので、敵との騙し騙されの諜報戦と非常に肉体的なアクションが見せどころのシリーズとなっています。
ですのでイーサンが相手の裏をかいていく知恵比べも見せ場の一つとなっていますが、本作の敵は時代を反映したAI。
相手を分析し、どのような行動を取るのかを予想し、様々な手をくり出し、またあらゆるネットワークに入り込み、欺瞞情報を流して、混乱をさせます。
人間であればイーサンは敵なしといったところもありますが、AI相手だと勝手が違います。
流石のイーサンも後手後手になり、その結果大切な人を失うという悲劇も経験します。
アクション的にも前半のローマでのカーチェイス、そして後半のオリエント急行でのシークエンスはこのシリーズらしく手に汗握るシーンの連続で見応えがあります。
シリーズの良さを正当に発展させた手堅い最新作という印象ですが、個人的には前半はややつかみどころがなくやや乗りにくい印象がありました。
特に新しい登場人物である、グレース、そしてガブリエルの行動原理が見えにくかったからです。
彼らは二人ともこの物語では重要な立ち位置となりますが、なぜこのように行動するか、彼らの真意が見えにくかったため、やや登場人物同士の関係性が掴みにくかったのですよね。
グレースはただ巻き込まれているだけなのか。
ガブリエルは過去にイーサンと因縁があり、今はAIと共同して暗躍しているようですが、彼がなぜそのように行動しているのかがわからない。
これは後編で明らかになるのかもしれませんが、ややもやっとしたところがあった印象です。
そのため数いる登場人物の関係性が把握するのに時間がかかり、やや前半乗り始めるのに時間がかかりました。
それ以外はスパイアクション映画として完成度は高く、長尺を忘れて最後まで一気に見ることができる作品となっており、全てが明らかになるであろう後編なのでしょうね。
この先の見えなさは主人公イーサンも同じであり、見る側に同じような不安感を抱かせるのは、狙いかもしれないと思ったりもしました。

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2023年8月15日 (火)

「キングダム 運命の炎」 エモーショナルとスペクタクル

邦画のレベルを超えた迫力のある映像の「キングダム」シリーズの第三弾です。
今回は2作目ではあまりスポットが当たっていなかった嬴政の過去を描く「紫夏編」と隣国趙との間で繰り広げられる「馬陽の戦い」の2つのエピソードが描かれます。
その構成のため、前半・後半が分断されている感がなくもないですが、それぞれに見応えはあるエピソードなので、見終わった時の満足感はあります。
まず前半の「紫夏編」ですが、これは嬴政が中華統一を目指す理由について語られます。
嬴政は若き頃、趙に人質として預けられ、迫害を受けます。
しかし、祖国の父王が死んだため、彼を秦に逃し、王座につけようとする闇商人の女性が紫夏です。
紫夏を演じるのが、杏さんなのですが、彼女の演技が素晴らしい。
嬴政を王になれる器と認め、彼が背負っていたトラウマを祓い、そして彼を守るために散った紫夏。
彼女との約束が嬴政に中華統一という目標を持たせ、それを実現させるためのモチベーションとなりました。
嬴政と紫夏との間にあるやりとりは非常にエモーショナルであり、心を揺さぶられるものがありました。
そして後半のエピソードは、百人隊長となった信が中心となり、大規模な戦い馬陽の戦いが描かれます。
後半は国対国の激突が描かれるわけで、まさにスペクタクルです。
前回で信は初陣を飾り、個人の力で死地を切り開いていきました。
本作では個だけでなく、隊員全員の力を結集していくというリーダーとしての力が試されます。
信が率いる隊は王騎より飛信隊の名を与えられ、遊撃隊的な役割を担います。
王騎と馮忌の間に繰り広げられる知略も見応えありつつ、計算され尽くされた作戦を、信の個の突破力をそのまま組織にしたような飛信隊がひっくり返していく様は爽快感があります。
信や羌瘣の個別のアクションシーンは前回より少ないものの、飛信隊全体の活躍は目を見張るものがあります。
最後の馮忌を目指して隊一丸となって肉薄してくさまはラクビーを見ているようでもありました。
アクションシーンと一言で言っても、毎回様々な趣向を凝らした見せ方をしてくるスタッフに脱帽です。
ラストに登場した龐煖は危険な存在感がありました。
こういう存在感がある役に吉川晃司さんはまさに適任。
次回作では王騎との因縁が描かれるのでしょうか。
期待が膨らむばかりです。

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2023年8月13日 (日)

「映画 仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐」仮面ライダー劇場版の難しさ

「仮面ライダーギーツ」の夏の劇場版です。
テレビシリーズの方はラスト前の佳境となり、先が読めない展開となっています。
今回の「ギーツ」のテレビシリーズは従来にも増して、一人の脚本家が年間書き切るという、大河ドラマの色が濃いのですが、こういう場合の劇場版はなかなかに立ち位置が難しい。
仮面ライダーの劇場版の方向性として、テレビシリーズのストーリーの合間に劇場版のエピソードが挟み込まれるという体をとるケース、テレビシリーズとは登場人物は同じでも別の世界を舞台にする場合(龍騎、555)があります。
劇場版は前者のケースが多く、本作もそのようなタイプの一つになっています。
どうしてもこのケースの場合は、テレビシリーズにあまり影響を与えないような独立した番外編となっているため、テレビシリーズが盛り上がっているほど、内容的に薄い感じがしてしまうことが多いです(「電王」はテレビシリーズとクロスオーバーするという特殊な作り)。
このケースで唯一うまくいっているのは「W」の劇場版だと思いますが、これはテレビシリーズが二話でワンセットの構造になっていたからかもしれません。
「ギーツ」はテレビシリーズがシリアスな展開を迎えているためか、劇場版は差を出すためか、ややコメディタッチとなっています。
主人公浮世英寿は劇場版はある未来人の干渉より、4人のエースに分解されてしまいます。
それぞれの英寿はテレビシリーズとは異なったキャラクターとなっていて、それが通常の英寿のキャラクターとギャップがあり、そこが本作のコメディトーンを出しています。
個人的にはテレビシリーズのシリアスなトーンが気に入っているので、劇場版のコメディトーンはやや違和感を感じました。
「ゼロワン」はコロナ禍の影響で半年遅れのタイミングで単独映画となりましたが、ストーリーもテレビシリーズの後日談となっていたおかげで、劇場版としても見応えのあるものとして仕上がっていました。
仮面ライダーの劇場版の難しさは、テレビシリーズが佳境を迎える寸前のタイミングで公開されるというところでしょう。

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2023年8月 7日 (月)

「映画 王様戦隊キングオージャー アドベンチャー・ヘブン」日本特撮の転換点

スーパー戦隊シリーズ最新作「王様戦隊キングオージャー」の夏の劇場版です。
前2作がスーパー戦隊シリーズの中でも特に異色作と呼ばれるつくりだったのに対し、オンエア前は王道へ回帰かと思われましたが、いや何、これはまた別の意味でなかなかの冒険をしていると思います。
冒険の一つとして大きいのは、その撮影方法です。
従来特撮番組での特殊撮影はクロマキー合成(いわゆるグリーンバック合成)やCGなどの合成が主でした。
本作では本格的にバーチャルプロダクションという技術を導入しています。
バーチャルプロダクションとはセットの背景に巨大なLEDスクリーンを置き、そこに背景を映し出し、その前で演技する俳優を背景ごとそのまま撮るというものです。
この方法の利点は、巨大なセットを組まなくても良いということ、俳優がグリーンバックではなく実際の背景の前なので演技がしやすいなどがあります。
ディズニーの「マンダロリアン」で本格的に導入され話題になりましたが、日本で毎週放映される番組に導入したのはなかなかに画期的であると思います。
本作は地球ではなく、チキューという異世界を舞台にし、個性豊かな5つの国が出てくるという物語です。
今までの特撮番組では予算や制作効率の都合上、どうしてもロケなどでセットを組む手間を省かざるを得ませんでした(セットは主人公側の基地や、敵側のアジトなど限られたもののみ)。
しかし、バーチャルプロダクションの導入により、表現の自由度が飛躍的に上がりました。
今回劇場版では、テレビシリーズよりもさらに意欲的に想像力あふれる異世界をチャレンジングに描こうとしています。
ニチアサの特撮の劇場版でここまで異世界を構築したのは正直驚きました。
ハリウッドの映画や、日本でも山崎貴監督のような制作費をかけられる映画ではこのレベルは当たり前でも、ここまでできるとは今までは思えませんでした。
確実にこの技術は日本の特撮のターニングポイントとなると思います。
ストーリーとしては、テレビシリーズの合間に挟まれるような話となっています。
「キングオージャー」は一話完結的な展開が多いスーパー戦隊シリーズの中では特異的で、ストーリーの展開が非常に大河的(仮面ライダー的)です。
ですので、かなり大人でも見応えがあるシリーズなのですが、映画もそのようなテイストでしっかり鑑賞できます。
そして短い尺ながら、テレビシリーズでは描かれていないそれぞれのキャラクターの深堀もできており、脚本も巧みだと思います。
タイトルでは「王様戦隊」と名乗っていますが、ドラマの中でこの名称が出たのはつい最近。
6人の王様がようやく揃ったわけで、シリーズとしても大きな転換点となる時期での劇場版となりました。
シリーズも後半戦となりますが、今後の展開も期待させてくれる作品です。

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