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2023年7月29日 (土)

「君たちはどう生きるか」この旅で何を学んだか

公開前に与えられたのはタイトル「君たちはどう生きるか」と青い鳥のビジュアルだけという情報が皆無な状態での鑑賞になりました。
意味深なタイトルなので、考えながら見て解釈をしなくてはいけないのかなという心持ちで挑みました。
が、最後まで見たところで、どう消化していいのかわからなかったというのが正直なところです。
まず冒頭から物語に感情移入がしにくかった。
主人公は眞人という少年。
彼は戦争において母親を空襲による火事で失います。
その後、彼は父親の工場がある土地へ疎開してきます。
物語に感情移入する時、そのガイドとなるのは主人公です。
物語の冒頭では彼に感情移入をするのが難しい。
彼は疎開先の小学校に転校したての時に、同級生と喧嘩します。
都会暮らしで垢抜けた彼は、地元の少年たちからすれば鼻持ちならぬ感じがしたのでしょう。
眞人からも馴染もうという素振りは見せていないようで、その結果、喧嘩となりますが、多勢に無勢で彼は負けてしまいます。
その帰り道、彼は石を拾って、なんとそれで自分の頭を傷つけるのです。
案の定、それを見た父親は学校にねじ込みます。
喧嘩に負けた腹いせにこのような行為をする少年へ、感情移入はしづらいです。
また、父親の再婚相手となる女性、これは母親の実の妹なのですが、彼女への態度も礼節があるように振る舞っていながらも、冷たい態度をとります。
この時点で彼は自分のことだけを愛し、周囲へ配慮をすることのない、計算高い少年に見えました。
無論、彼に同情するべき点もあります。
大人であっても抗することができない、戦争の時流。
そしてそれによって失ってしまった母親。
父親の都合による転校。
そして愛する母の代わりにやってくる新たな母親。
彼にとっては生きているこの世界が不条理で、ままならぬものに感じたことでしょう。
彼がモノを見るときの冷めた視線、世界と距離を取るような振る舞いは、そのような世界で身につけた彼なりの処世なのかもしれません。
しかし、彼がその後、放り込まれた異世界は、現実世界よりも一層不条理な場所でした。
全くこの世の常識が通用しない世界。
たまたま新しい母親となる女性を追って迷い込んだ世界ですが、その世界を彷徨いながら、彼は人と出会っていきます。
彼を異世界に誘った張本人であるアオサギ。
異世界で逞しく生きるキリコ。
そしてかつてその異世界に同じように迷い込んだヒミこと、若き日の母親。
彼は彼らとの出会い、彼らに助けられながら、進んでいきます。
そして次第に彼は彼が異世界に来た目的を自覚します。
彼の母親の妹であり、新しい母親となる夏子を救うということを。
彼はおそらくそれまでは不条理な社会とは彼なりに距離を置くことで、自らの苦しみを和らげようとしてきたのでしょう。
だから人との関わりに積極的にはなれなかった。
しかし、異世界の旅で彼は人と関わり、人に感謝し、人のために動くことを学びます。
積極的に関わることにより、より人は逞しく生きていける。
彼はこの度によってそのようなことを学んだのではないでしょうか。
これがタイトルに込められた意味かなと私なりに考えました。
もちろん、このような作品なので、さまざまな解釈ができるでしょう。
それもまたこの作品の楽しみ方かもしれません。

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2023年7月14日 (金)

「1秒先の彼」ほっこりはんなり

台湾映画「1秒先の彼女」のリメイクとのことですが、オリジナルは未見です。
ほとんど予備知識がなくて、脚本が宮藤官九郎さんということもエンドロールで初めて知りました。
「天然コケッコー」でタッグを組んだ、山下敦弘監督と主演の岡田将生さんということが興味が出ました。
非常にかわいらしく愛おしい気持ちにしてくれる作品です。
岡田さんが演じるハジメは人よりも常にワンテンポ早く動く癖のある男です。
性格的にもあけすけにモノを言うタイプなので、そばにいるとやや気忙しい感じがするかもしれません。
それだからか、ルックスはいいので女性に声をかけられることは多いものの、なぜか結局フラれてしまうことが続いています。
もう一人の主人公は清原果耶さん演じるレイカです。
彼女はハジメとは全く逆で、人より動くのがワンテンポ遅い。
ですので写真が趣味なのに、動くものを撮るのが苦手。
おっとりおどおどしているので、目立つことがない女の子です。
実はレイカは子供の頃にハジメと出会っていて、ある出来事から彼のことを好きでいましたが、大きくなったハジメはそのことをすっかり忘れている様子です。
レイカは言い出すことができず、毎日ハジメの職場である郵便局に通うだけしかできません。
1秒早く動くハジメと1秒遅れて動くレイカ。
本来であればなかなかリズムが合わず、すれ違う二人ですが、不思議な出来事が起こります。
前半はハジメ視点で彼の生活、そして起こった不思議な出来事が語られます。
後半はレイカ視点で語られますが、二人の馴れ初めや不思議な出来事の秘密が語られ、伏線が回収されます。
さすが宮藤官九郎さん、脚本が巧みです。
本作で何が一番良かったかというと、レイカ演じる清原果耶さんでした。
彼女は若いですが、今まで見た作品の中でも演技が上手いなとしばしば思っていました。
本作は前半ではハジメの視界の端っこの方でおどおど動いている感じの存在感の薄い女の子の印象で演じていました。
後半のレイカパートでは、彼女はワンテンポ遅いだけで、意外に思いは強く、そして大胆に行動するタイプであることも明らかになります。
後半である人に向かって「人が大事に思っている人をバカにすんな!」と前半の彼女からは想像できないような強い言葉を吐きますが、それがかえって彼女の思いの強さを表していました。
その後の不思議な出来事の時にも大胆な行動をとるところも意外性がありました。
前半と後半で印象にギャップが出てくる感じが非常に可愛らしいなと思いました。
これがいわゆるギャップ萌えでしょうか。
世間からちょっとズレている二人。
二人とも愛らしく、幸せになってもらいたいと見ていて思える作品です。
きっと見終わったらほっこりした気持ちで劇場を出られると思います。

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2023年7月 9日 (日)

「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」老いるインディ

前作「クリスタル・スカルの王国」から15年ぶりの新作となる本作、初めてスピルバーグではなく、別の人物が監督を務めています。
それは「フォードVSフェラーリ」など見応えのある作品を発表しているジェームズ・マンゴールド。
監督が変わったことで、大好きなインディのトーンが変わるのではないかと少しばかり心配はありましたが、それは杞憂に終わりました。
オープニングから冒険に溢れていて、シリーズの名に恥じない作品となっています(なんなら「クリスタル・スカル」よりインディっぽい気がします)。
オープニングは第二次世界大戦終末が舞台となっていますが、そこでは若かりし頃のインディが登場しています。
当然のことながらさまざまな技術を使って、若いインディを再現しているのですが、全く違和感がありません。
カメラの動きなどもスピルバーグっぽく、あの頃の雰囲気を上手に再現しているかと思います。
とは言いながら、本作でメインとなるのは1960年台であり、その頃のインディはすでにリタイアを迎える歳となっています。
溌剌としていた若い頃のインディはすでになく、時代に取り残されそうになっている老人です。
息子を失い、その結果長年連れ添ったマリオンとも別れ、一人で暮らしています。
しかしながら心の中にある冒険心は無くなっているわけではなく、再び彼は冒険に旅立ちます。
ただし、すでに高齢となっているインディですので以前のように動けるわけはなく、主に冒険で派手な立ち回りをするのは、今回彼の相棒となるヘレナです。
彼女はかつて一緒に冒険をした同僚の娘であり、非常に活動的な女性です。
謎を解き、秘宝を狙う敵と競争ながら、遺跡を巡っていく様はかつてのインディシリーズのワクワクした気持ちを思い起こさせます。
やはり「インディ」はこうじゃなくっちゃいけません。
ラストの展開はなるほどと思いましたが、前回よりは納得性の高いものでした。
最後にインディが決断しようとしたことは、年月を経て年老いた彼の気持ちを表しているものであり、切なくもありました。
かつてほど体が動くわけではなく、次第に老いていき、世間にも居場所を見つけられない。
昔が耀ければ輝かしいほどに、忸怩たるものがあるでしょう。
その気持ちが非常に表れており、今までのインディらしい作品でありながらも、本作ならではの個性も持っていました。
本作でハリソン・フォードがインディを演じるのは最後とのこと。
長い間、お疲れ様でした。

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