「せかいのおきく」狭いがしあわせ
本作の舞台となるのは江戸末期。
時代としては諸外国が日本に開国を迫っている頃で、日本人にとって世界が急速に広がっていこうとしている時になります。
本作の主人公は元武家の娘おきく、そして下肥買いの中次、その兄貴分の矢亮です。
彼らの世界には開国などは全く関係のない出来事で、本作の中でも全く触れられることはありません。
現在はインターネットで地球上のどこでも繋がることができ、さまざまな交通機関でどこでも行くことができます。
現代の世界という概念は非常に広い。
主人公たちの生きる世界は江戸とその周辺部のみ。
彼らの世界は驚くほどに狭い。
主人公のおきくは中盤で声を失い、さらに彼女の世界は狭くなります。
しかし、狭い・広いが重要なのでしょうか。
おきくと中次は身分を越えて、互いに惹かれ合います。
言葉を発することができないおきくに、中次は賢明に伝えようとします。
「おれはせかいでいちばんおまえがすきだ」と。
インターネットで世界が広がり見ず知らずの人から非難され、世界に絶望してしまうこともある現代。
動ける範囲も、知り合う人も圧倒的に狭い時代でも、本当に自分のことを思う人がいる世界は狭くても、幸せな世界なのかもしれません。
「おきくのせかい」は彼女にとって十分に幸せな世界なのでしょう。
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