「Winny」組織と個人
WinnyとはP2P技術を使ったファイル共有ソフトです。
P2PとはPeer to Peerの略で、クライアントサーバなどを解さずに、端末同士が直接ファイルをやり取りする仕組みです。
現在LINEや仮想通貨などでも使われている技術です。
このソフトが発表されたのは2002年とのことです。
私は仕事柄著作権について気をつけるようにしているので、このソフトを使ったことはなかったのですが、コンピュータの雑誌などで話題になったのは覚えています。
当時このソフトを使って違法に著作物をやり取りした事案が多く発生し、何人か著作権法違反で逮捕者が出ましたが、このソフトの開発者である金子勇さんが逮捕されたことで、大きく取り上げられました。
金子さんは著作権法違反の幇助ということで逮捕されましたが、これが議論を呼びます。
劇中でも例として挙げられますが、包丁で人を刺した時、刺した人間は当然罪になりますが、包丁を作った人間は罪になることはありません。
金子さんについても同様のことが言えるのではないか、ということですね。
警察・検察は、金子さんに著作権という仕組み自体を否定する意思があり、それはすなわち社会テロであるという筋をたていました。
それに対して弁護側は技術者として高いハードルを越えて新しい技術を開発しようとするのは、技術者としての本分であり、このように開発者を逮捕することが前例となれば、未来の技術者が萎縮し、日本が新しい技術を開発しにくい社会になると訴えます。
この事件については私は経緯について、あまり詳しくなかったのですが、本作を見る限り警察・検察は新しい技術による新しい事案に対応しきれなかった感はありますね。
対応しきれなかったので、著作権違反の土壌となっているWinny自体を止めようとしたということでしょうか。
ただこれは非常に乱暴な対応で、結果的にはあまり効果はなかったように思います。
当時の記憶ですが、WInnyと同様の機能を持ったソフトは他にもたくさん出てきていたように思います。
一旦ソフトとして発表されれば、ソースコードをなどを見れば他の技術者も同様のソフトは開発できるでしょう。
検察などは悪い筋であったと途中で思ったとしても、大きな組織ということで止まれなかったのかもしれません。
組織の慣性の法則が働いてしまったのでしょうか。
同様に組織の慣性の法則が働いていた例として、本作には愛媛県警の裏金事件もWinny事件と並行して描かれます。
この事件のことも私は覚えていて、現職警察官が内部告発したことに驚きました。
これも皆が悪いこととしてわかりながらも、組織としてはそれを止めることができなかった、悪い慣性の法則の例だと思います。
組織の慣性の法則は、得てして個人の価値観なども踏み潰します。
個人は大きな組織と対することはなかなかできません。
劇中で金子さんがWinnyを開発することになった動機として、強固な匿名性を挙げていました。
組織と対等に立つための、個人を守るものとしての匿名性。
匿名であれば、組織に対して安心して物を申すことが出来る。
個人を守るための最大の防具ということですね。
これはその通りだと思います。
ただこの防具は、今では武器となっていることも問題になっているようにも思えます。
匿名であれば何もやっても平気、という気分が次第に広がっていったようにも思えます。
いわゆるバイトテロや迷惑系動画などはそのような気分が暴走した事例かもしれません。
おそらく金子さんは性善説でものを見る方だったのでしょうね。
ここまで匿名を使って悪さをする人が増えてくるとは想像もしていなかったのではないでしょうか。
とはいえ、このような状況であってもTwitterやInstagramの開発者を逮捕しよう、などと言い出す人は皆無なわけで、金子さんの逮捕が今の感覚からするとやはりおかしいという感じはしますね。
本作では派手さはないですが、俳優陣も非常にいい演技をしていたと思います。
金子さんを演じていた東出昌大さんは、癖などを再現していて、彼の個性(自分のことを話すのは苦手ながらも、意外とユーモアもある)を醸し出していたように思いました。
金子さんをサポートした壇弁護士を演じていた三浦貴大さんもよかったです。
役作りでしょうか、普段よりはかなりふっくらした体型にしていて、壇さんの思いなどがはっきりと伝わってきました。
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