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2023年3月21日 (火)

「シン・仮面ライダー」その男は泣きながら敵を殴る

「仮面ライダー真」ではなく、「シン・仮面ライダー」です(これがわかる人はかなり古くからのライダーファン)。
庵野秀明氏による「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」に次ぐ、「シン解釈」の「仮面ライダー」となります。
私は「ウルトラマン」は本放送ではなく再放送が初見で、「仮面ライダー」はV3くらいからリアル視聴をした世代です。
子供の頃から両方とも好きでしたが、今現在は「ウルトラマン」は追いかけられておらず、「仮面ライダー」のみで、思い入れが強いのは、「仮面ライダー」でしょうか。
そういうこともあるからか、「シン・ウルトラマン」と「シン・仮面ライダー」のどちらが良かったかと問われれば、「シン・仮面ライダー」と答えるでしょう。
「シン・ウルトラマン」はウルトラマンの人格を描くという点で、まさに新解釈をしていたと思います。
「シン・仮面ライダー」は新しい解釈というよりは、オリジナルや石ノ森章太郎の漫画のエッセンスを割とストレートに現代風にリファインしたような印象です。
主人公本郷猛はショッカーに改造され、人間を超えた力を手に入れます。
「仮面ライダー」シリーズにおいて共通的に描かれているエッセンスとしては、主人公の超越した力は敵側のテクノロジーによって生み出されたものである、ということがあります。
これは「ウルトラマン」や「ゴジラ」にはないものです。
このことにより仮面ライダーは戦うことにより「同族殺し」という宿命を背負うことになります。
本作の仮面ライダーのマスクもそのようにデザインされていますが、印象的な大きな複眼の下にクマのように見える黒い部分があります。
これは通称「涙ライン」と呼ばれていて、元々はスーツアクターの覗き穴として設けられていましたが、デザイン上「仮面ライダーは同族殺しを宿命として背負いながら、泣きながら戦っている」と解釈されていると聞いたことがあります。
本作の本郷猛も己が得てしまった簡単に人の命を奪ってしまう力に戸惑い、困惑しながら戦います。
彼も泣きながら戦っているようにも見えます。
仮面ライダーは等身大のヒーローで、人外の力を持っていますが、ウルトラマンほどに超越はしていません。
またウルトラマンは人間とスケール感が違いすぎて、彼の行動が人間に与える影響は小さすぎて見えません(これをリアルに描いたのが「平成ガメラ」)。
等身大であるからこそ、相手に与えるダメージもリアリティがあり(本作はPG12指定のダメージ表現)、だからこそ痛みも伝わってきます。
彼が戦えば必ず敵の命(本作のショッカーの戦闘員はショッカーに共鳴する人間)を奪う。
彼はそれを知った上で、泣きながら拳を振るう。
「仮面ライダー」は哀しみを背負った存在であり、その部分を庵野監督は丁寧に描き出しているように思えました。
冒頭に書いたように本作は庵野監督が、自分らしさよりもオリジナルらしさを重要視して作り上げたもののように思えますが、彼らしさがないわけではありません。
本郷のセリフで「世の中を変えるのではなく、自分を変える」というものがありました。
本作におけるショッカー怪人たちは、通常の社会とは異なる価値観を持っています。
自分の価値観に合わせて社会を破壊し、変えていこうとしているのが、彼らなのですが、本郷は異なる見解を持っています。
彼も人間としては高い能力を持っていますが、社会には馴染めず、父親の事件のこともあり、うまく生きられなかったようです。
その点では、他のショッカー怪人と同様と言えます。
しかし、彼は社会の価値観を大切にし、自分を変え、そしてその守護者になったわけです。
古い「エヴァンゲリオン」では碇シンジは社会や親に受け入れられないという苦しみを背負っていました。
しかし、それは彼が社会や親を受け入れないということも裏返しでもありました。
彼はそれに気づかず、苦悩します。
しかし、「シン・エヴァンゲリヲン」では彼は全てを受け入れることができたように見えました。
まさに本作の本郷猛は受け入れ切った上で、彼が社会のためにできることを為すという、大人になったシンジのようにも見えます。
庵野監督の作品は、彼自身の社会との対面の仕方という価値観が反映しているように思っていますが、本作では社会との関係性が非常に大人になっているように思えました。
「仮面ライダー」シリーズとしての位置付けに加え、庵野監督作品群の一つとしての見方も興味深い作品かもしれません。

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