「かがみの孤城」戦士の休息所
原作は辻村深月さんの同名小説で、本屋大賞も受賞しています。
本作はわたくし的にはノーマークで見る気がなかったのですが、6歳の娘が観たいと言ってきたので、一緒に行くことになりました。
ノーマークであったのは、予告を見たときの印象で、ライトノベルによくあるような子供たちが異世界を訪れて冒険をする、といった内容なのかと思っていたからです。
その手のファンタジーには食傷気味でして、あまり食指が動きませんでした。
観ることになったので、いつものようにスタッフチェックをしてみると監督はなんと原恵一さん。
今までも深みのある作品を作ってきた原さんなので、ちょっと期待感も持ちました。
それで蓋を開けてみると驚きました。
予想をしていた展開とは全く異なる、奥深いストーリーでした。
子供たちが現実ではない、異世界に行くという点だけは同じでしたが。
そこは冒険するところではなく、心を休める場所でした。
なぜなら彼らにとって現実こそが戦っている場所で、彼らはその戦いの中で疲弊し、崩れ落ちそうになっていたからです。
彼らはいわゆる不登校生徒でした。
彼らは孤独でした。
学校にも、そして家庭にも居場所がありません。
自分の本当の気持ちを誰にも伝えられず、そんな状態になってしまう自分が不甲斐なく、情けなく思っているのに、誰とも共有できません。
彼らにとって城は同じようなことを感じている仲間が集まる安らぎの場所だったのです。
現実世界にもフリースクールといった場所もありますが、彼らにとっては城がそのような役割を持っていたのかもしれません。
自分のことを話し、仲間に理解してもらい、仲間の思いも理解し・・・。
そのようなことで彼ら同士の絆を作っていきます。
そして、その絆は崩れ落ちそうになった心に再び力を与えてくれます。
そこは彼らにとって戦士の休息所であったのです。
<ここからネタバレ>
この作品の凄さが何かと言ったら、その構成力でしょうか。
原作を読んでいないのでなんとも言えないですが、なぜ彼らであったのかということが徐々に明かされていくのですが、こちらの読みをどんどん裏切っていきます。
途中で彼らが同じ中学校に通っているということが判明しますが、なぜか現実世界では出会うことができませんでした。
私も観ていて、劇中のマサムネくんのようなパラレルワールド説をとったのですが、あっさりとそれは否定されてしまいました。
しかし、登場人物の一人アキが制服姿で現れたとき、彼女の格好にオヤっと思ったのです。
彼女は今時珍しいルーズソックス姿でした。
もしや、違う「時代」に暮らしているのでは・・・?
ルーズソックスであることは、当然意識してそういうヒントとして提示されているのですよね。
アキの顔のアップの後に、喜多島先生の顔につながるというカットもありました。
これは同一人物であるということのヒントでしょう。
喜多島先生が、フリースクールで何人かを知っているというのもミスディレクションをさせるようでもあり、ヒントでもあるという素晴らしい仕掛けです。
非常に巧みな構成で痺れました。
原作はどう書いてあるのか、興味が出て、劇場の帰りに思わず原作本を買ってしまいました。
よくよく原作者を見れば、昨年これまた拾いものをした「ハケンアニメ!」と同じ作者の辻村深月さん。
この方の小説は自分の趣味に合うはず!と確信を持ちました。
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