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2022年11月12日 (土)

「すずめの戸締り」場所を慎む物語

廃墟ブームという言葉が何年か前から聞かれるようになってきていた。
かつて人がそこで生活し、働いていた場所が打ち捨てられて朽ちていった場所、それが廃墟。
人はどうして廃墟に惹かれるのだろうか。
それはそこに暮らしていた人々の想いが感じられるからかもしれない。
廃墟になってしまう理由はそれぞれある。
災害によってそこで暮らせなくなったり、産業が成り立たなくなったり、若い人々が土地を離れていってしまったり。
突然である場合も、徐々にの場合もあるだろう。
いずれの場合でも、そこに暮らしてきた人々の想いは確かにあった。
新海誠監督は本作を<場所を慎む物語>にしたかったという。
人が亡くなった場合は、それを弔う儀式がある。
亡くなった人々を自然に返すという儀式を通じ、残された人々も自分の中で整理を行う。
それと同様のことを行うのが本作でヒロイン鈴芽の相手役となる草太が生業とする閉じ師なのだろう。
彼が後ろ戸を封印するときに口にする祝詞がある。
「かけまくもかしこき日不見の神よ
 遠つ御祖の産土よ
 久しく拝領つかまつったこの山河
 かしこみかしこみ
 謹んでお返し申す」
これは自然から預かって人が暮らしてきた土地を自然に返します、ということを述べている。
<場所を慎む>ことにより、土地も喪に服することができるのかもしれない。
人々が暮らし、過去から連綿と続く想いが繋がっていく場所はその想いが土地を鎮めているのだろうか。
その想いが薄まり消えていくところに、みみずは頭をもたげるのだろうか。
本作で唯一、みみずが起きた場所で、寂れていない場所があった。
東京である。
そこで多くの人が暮らすのにも関わらず。
廃墟ではないのにも関わらず。
後ろ戸があったのは、水道橋の地下であった。
これはかつての江戸城の名残だろうか。
東京という街は江戸から明治で、過去からの想いが一度分断されている場所かもしれない。
過去の廃墟の上に東京は作られているのか。
本作は鈴芽が旅する中で人と出会い、土地の想いに触れることより、ようやく本当に母親の喪にふし、前に進むことができるようになる成長の物語である。
彼女も普通の女子高生で、普通に夢を持ち、楽しく暮らしてきていたと思われる。
何か、過去のトラウマに囚われたような少女ではない。
ただ多くの若者がそうであるように、まだ「生きる」ということに特別な思いを持っているわけでもないだろう。
自分もそうだったが、生きているのは当たり前なのだ。
けれど、草太と出会って彼が特別な人となり、それを失う恐怖を感じ、また廃墟にかつて暮らしていた人々の想いも感じた。
旅先で出会う人々のふれあいから、暖かさを感じた。
「生きている」ということは特別である、と鈴芽は学んだのだろう。
最後に再び草太がみみずを封じる時に「人の命が儚いものであるとわかっている。けれどももっと生きたい」と言った。
まさに同じことを鈴芽も思ったのだろう。
鈴芽は母親がそうであったように看護師を見ざしていた。
しかし、旅を経て、その想いはさらに特別なものになったのではないだろうか。

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