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2022年11月13日 (日)

「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」新たなブラックパンサーは2度覚醒する

チャドウィック・ボーズマンの死去を経て、新たなブラックパンサーの物語を始まります。
彼の死後、マーベルは早いタイミングで彼に代役を立てたり、CGで復活させたりという方法は取らないと決めました。
タイトルのヒーローが不在という状況の中で、物語を作るのは非常に難しいというのは想像に難くないですが、制作者たちは見事に感動的なストーリーを紡ぎ出しました。
劇中でもティ・チャラは病気により逝去したという設定になっています。
気高き国王という絶対的な指針を失ったワカンダは悲嘆に暮れ、進むべき道を見いだせません。
特にティ・チャラの妹であるシュリは、彼を救えなかったこと悔やみ、もがき苦しみます。
国王であり、英雄であったティ・チャラを失ったワカンダのヴィブラニウムを狙い、各国は干渉を始めます。
そして新たにヴィブラニウムが発見され、そのことにより海の王国タロカンの存在が浮かび上がってきます。
その王国の王がネイモア。
タロカンの由来も本作で語られますが、攻撃的で自国の利益ばかりを追い求める先進国に関わらないように存在自体を隠してきたという点で、ワカンダと通じるところがあります。
事実、シュリはタロカンを訪れ、ネイモアとも語り、互いに合い通ずるところがあることを確認しています。
しかし、不幸な出来事が重なり、両国は全面的に戦う事態となってしまいます。
<ネタバレあり>
本作ではブラックパンサーを誰が継ぎ、ティ・チャラの意思を継承するかということが最も注目するポイントとなります。
事前予想通りシュリがその座を継承するのですが、彼女が真に兄の思いを継ぐために、自分の中の喪失感、絶望、怒りに整理をつけ、新たなブラックパンサーとして覚醒するかが丁寧に描かれます。
そもそもシュリは現代的な考え方の持ち主で、伝統的なマジカルさよりも、テクノロジーに重きを置いています。
彼女は偉大な兄という存在の傘の下で、自由に生きてこられたともいえ、彼女自身もそういった自覚はあったのではないでしょうか。
彼女はいきなり放り出されてしまった子供のように不安になっていたのかもしれません。
そして兄に加えて、母もネイモアに殺されたことにより、その不条理に対しての怒りが彼女を支配します。
ネイモアはたった一人でワカンダの首都を壊滅させるほどの力の持ち主であるため、彼女は力を求めてブラックパンサーになります。
ワカンダ人がブラックパンサーになるときハート型のハーブを煎じたものを飲みますが、その時先祖の霊と対話し、彼らの意思を継承します。
シュリもその導きを得ますが、その相手がなんとキルモンガーであったのは驚きました。
彼は殺された父の復讐をするために、王座を簒奪し、ブラックパンサーになった男です。
登場した時は驚きましたが、この時点でシュリが対する相手としてはキルモンガーが最も相応しい。
非常によく考えられていると思いました。
シュリは復讐心に囚われてブラックパンサーとなった。
まさにキルモンガーと一緒です。
彼女はネイモアのタロカンに戦いを挑みますが、それはかつてのキルモンガーを彷彿とさせます。
この時点で私は「ブラックパンサー」という物語が、暗黒の方向に進むのではないかと不安になりました。
復讐が成し遂げられても、シュリは救われるのか。
そのような女王に率いられるワカンダはどうなってしまうのか。
ネイモアとの最終対決の際、シュリは瀕死の重傷を負います。
その時、彼女は亡き母の霊と対面します。
そして気高き兄の意志も感じます。
ブラックパンサーの儀式の時、人は一度死に、先祖の魂と触れ、そして復活します。
生まれ変わると言ってもいいでしょう。
シュリは最初にハーブを飲んだ時にキルモンガーと触れ、復讐者として覚醒し、さらにネイモアとの対決で重傷を負った時も死地に踏み込んだのかもしれません。
そこで母の魂と触れ、再び本当のブラックパンサーとして覚醒したのでしょう。
シュリは兄と母の死を、自分の中で整理し、昇華し、真の王として、英雄として生まれ変わりました。
主人公の死という想像以上の出来事を経験しつつも、それを昇華させ素晴らしい物語を紡ぎ出したスタッフに敬意を表したいです。

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