「沈黙のパレード」 共感への巧みな誘導
「ガリレオ」シリーズの劇場版第3弾です。
前作が公開されたのはもう9年も前なんですね!
天才ガリレオ湯川学の相棒はやはり内海薫のイメージが強いのですが、同役で柴咲コウさんが14年ぶりに復帰です。
14年経ったとは思えないコンビぶりでした。
原作は未読です。
ある若い女性が殺害されたもののその容疑者は不起訴になります。
その女性は家族や周りの人々から愛されており、人々はそこに不条理と怒りを感じます。
そして、しばらくしてその犯人が殺されてしまう。
犯人は誰なのか・・・。
予告を見たときは、「オリエント急行殺人事件」のような展開なのかもしれないと思いました。
単独犯ではなく、容疑者へ怒りを持つ人々が皆で彼に罪を贖わせようとしたのではないかと。
映画が始まると、その女性の生涯が描かれます。
生まれた時から、家族や周りの人々にとても愛されていました。
見ている自分は彼女の運命を知っています。
自分にも娘がいるので、見ていて切なくなり、アバンのところですでに泣いてしまいました。
ここで私は彼女の周りの人々に一気に共感してしまいました。
殺人そのものが悪いということは分かりつつも、容疑者に復讐をしてもらいたいと思ったりもし、彼らにその本懐を遂げてほしいとも思いました。
本作の中で主人公の湯川よりも、存在感があり、もう一人の主役と言ってもいいのが、草薙です。
彼は湯川の大学時代からの同期で刑事をしており、今までも彼と協力して事件を解決してきました。
彼は以前この事件の容疑者を同じように自白が取れなかったということで、起訴できなかったという過去があります。
そのためにこの事件を起こしてしまったという悔恨の念を持っており、そのため彼自身も被害者の家族への共感を持っています。
しかし彼は刑事であり、法のもとで犯人を裁かなければいけません。
もし家族の誰かが殺害したのであれば、その人物を逮捕しなくてはいけないのも彼の役目です。
彼は家族たちへの疑いを深めていく中で、彼らへの共感と申し訳なさ、自分の職務への責任感の狭間で、憔悴していきます。
彼の苦しみは、見ている我々、つまりは冒頭の描写で、家族への共感を強く持ってしまった我々も同じように感じることができます。
最初は家族へ共感していきましたが、見ているうちに草薙の苦しみとも共感を強くしていきます。
湯川は、友人を苦しみから解放するために真実を明らかにしていきます。
疑いのままにいるからこそ、彼は狭間で苦しみ続ける。
真実が明らかになれば、プロである草薙はやるべきことを果たすことができる。
湯川にはそれがわかっているからこそ、真実を明らかにしようとしたのだと思います。
容疑者を殺害した犯人にしても、真実が明らかになれば少しは救われるところがあったと思います。
本作は登場人物への共感への誘導が非常に巧みで、そのため見ていて苦しいところもありましたが、最後は救いも感じられるものでした。
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