「異動辞令は音楽隊」二重においしい
昭和の鬼刑事を地でいく成瀬は、前時代的な強引な捜査方法のためコンプラ違反で、警察音楽隊に異動させられます。
タイトルにある音楽隊とは、警察音楽隊のことです。
この隊に属するメンバーは当然のことながら警察官で、それぞれ職務を持ちながらも、音楽隊の演奏者でもあり、二足の草鞋を履いています。
本作も音楽を主テーマとしながらも、サブテーマとしては警察の事件を描いていて、そのバランスが非常に巧みで、厚みのあるストーリーとなっています。
おそらく音楽だけをテーマにすると、どこかで見たような作品となってしまったかもしれませんが、サブテーマを織り込むことにより、オリジナリティが出たように感じました。
まず主テーマの音楽についてです。
成瀬は昔の刑事らしく、組織捜査というより、自分の足とカンで操作するタイプです。
時折、現在ではコンプラ的に許されないこともしますが、彼なりに犯罪者を許さないという信念に基づいて行動しています。
ただ現代においては、組織においても、家庭においても彼のような考えは受け入れられにくく、その両方で彼はその立場を失ってしまいます。
人間50歳になって自分の中の価値観を変更しなくてはいけなくなるということは、非常に苦しい物です。
彼はそれぞれの個が最強であれば、その組織は当然最強になるという足し算の考え方です。
しかし、音楽は足し算ではなく、掛け算なのかもしれません。
組織がうまくいっていない状態のことを不協和音と言いますが、これも音楽用語ですよね。
これはそれぞれが1以下のパフォーマンスの時、掛け算でさらに悪くなってしまうことを表していると思います。
一時期の音楽隊もこのような状況であったことも描かれます。
音楽隊の同僚である来島は「音をミスっても周りがカバーすればいいじゃないですか」と言います。
音楽はメンバー皆で作り上げるもの。
次第に成瀬もそこに共感し、今まで感じてなかった充実感を感じるようになります。
そして今までの自分を見直すことができるようになりました。
音楽映画というのは最後に皆の意識が一致して最高の演奏ができたところに見ているものもカタルシスを感じることができます。
本作もまさに王道の音楽映画の展開でした。
もう一つサブテーマの方ですが、こちらは現代を表している特殊詐欺を扱っていました。
老人ばかりを狙う悪質な犯罪は許しがたく、本作のような音楽映画のトーンとはかなり違っているようにも思えましたが、それが本作の個性になっていたと思います。
誰がこの事件の犯人なのか、警察はその犯人を捕まえることはできるのか、それがサブテーマになります。
音楽隊のファンである老婦人がその詐欺の被害者となってしまうということで、主テーマとサブテーマが結び付きます。
終盤で音楽隊のメンバーが警察官として犯人を逮捕するところに警察ものとしてのカタルシスがありました。
本作は音楽ものとして、警察者として二カタルシスを感じられる二重においしい作品であると思います。
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