「ソー:ラブ&サンダー」トラウマとの対峙
MCUのフェーズ4はそれまでのフェーズに比べると方向性が定まっていないという批判があります。
先般マーベルのプロデューサーが「フェーズ4はインフィニティ・ウォーやエンドゲームの事件から受けたトラウマにキャラクターが向き合うことがテーマ」といった趣旨のことを話していました。
これはとても腑に落ちる内容です。
確かに「ワンダビジョン」「マルチバース・オブ・マッドネス」はワンダがヴィジョンや子供たちを失ったことをどうしても諦めきれないことが起因となっていますし、「ノー・ウェイ・ホーム」も師であるトニー無き後にヒーローとして覚悟を決めるスパイダーマンを描いています。
他にも「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」「ブラック・ウィドゥ」なども多かれ少なかれそのテーマが織り込まれています。
そして本作「ソー:ラブ&サンダー」もそのテーマは強く描かれています。
ソーは数々の戦いの中、多くの愛するものを失ってきました。
母、父、そして弟。
そのためいつしか彼は戦いを疎うようになりました。
しかし、神を次々に殺していく”神殺しの”ゴアも登場により否応なく再び戦いにソーは向き合っていきます。
クリスチャン・ベール演じるゴアも愛する娘を神のために失ってしまった男です。
彼は神を殺せる剣を持ち、神々へ復讐を行います(とはいえ、彼の真の目的は他にあることが広範で明らかになります)。
ソーとゴアは共に愛するものを失った者であり、方や戦いを避け、方や戦いを巻き起こす者となった対照的であると言えるかと思います。
まさにタイトルにある愛=ラブが本作の主題であることがわかります。
もう一つの愛が描かれます。
かつてソーの恋人であったジェーンの再登場です。
彼女は成功を収めた学者となりましたが、末期がんとなり余命幾許もないことがわかりました。
しかし、ニューアスガルドにある破壊されたムジョルニアの前に立った時、その力を得て、マイティー・ソーとなったのです。
彼女はムジョルニアを手にしている時はその力により、がんを抑え込み屈強な体となっていますが、手放すと病に侵された状態に戻ってしまいます。
ジェーンは手にした力で人々を救い、そしてソーとともにゴアと戦います。
彼女はそれによって生を実感し、その命尽きるまで懸命に生きようとします。
ソーもそんな彼女の運命を知った時、共に戦うことを選択します。
愛はいつか失われるかもしれない。
それが怖いからといって何も動かないというのは良きことなのか。
ジェーンの生き様を見て、生あるかぎり、懸命に生きて愛していこうとソーは思ったのではないでしょうか。
フェーズ3の後半からこれまでソーは力がありながらもずっと逃げてきていたのかもしれません。
ある意味、彼はヒーローとしてようやく一皮剥けたかもしれません。
<ここからネタバレあり>
ジェーンを演じたナタリー・ポートマンのマイティ・ソーは素晴らしかったです。
美しくかつ、逞しく。
もっと彼女の姿を見ていたかったですが、そうもいかないようです。
ただ一つの慰めは彼女もアスガルドの神々が死後暮らす場所に行ったようなので、いつか再びソーと出会えることになるであるということですね。
ヴィランであるゴアも深いキャラクターでありました。
彼の本当の狙いは神々への復讐ではなく、愛する娘の復活でした。
自分の命と引き換えに復活させた娘がラブとなり、ソーが親として育てていくことになるとは意外な結末でした。
それでタイトルが「ラブ&サンダー」なのですね。
「ソーは戻ってくる」とあったので、次回はこのコンビの作品が見られるということでしょうか。
ラブを演じていた女の子はソー役のクリス・ヘムズワースの実の子供だそうです。
息の合ったコンビになりそうなので、期待したいです。
監督のタイカ・ワイティティの演出の演出のさじ加減も良かったです。
評価が高い「バトルロワイヤル」は初めてのタイカの作品だったので、見ていて戸惑いがありました。
テイストが大きく変わったためです。
しかし、それから彼の他の作品も見る中で、彼独特のテイストが好きになりました。
そのため本作は非常に楽しめました。
彼の作品は現実の過酷な部分と面白おかしいコメディの部分の両方が入っているのが特徴です。
一見合わない要素なのですが、彼の作品はそのバランスが絶妙で、それぞれがぶつかるのではなく、お互いに高め合うような感じがするのですね。
「ジョジョ・ラビット」などはその印象が強かったですが、本作も同じようなテイストを感じました。
タイカは「スター・ウォーズ」の映画も企画しているとのこと。
「スター・ウォーズ」はディズニー配信も含め、色々作られていますが、MCUのようなエネルギーを個人的に感じられていません。
お約束ごとが多い中で、こじんまりしているようにも感じます。
タイカであればそのようなお約束ごとを蹴散らしてくれるような気がします。
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