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2022年6月15日 (水)

「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」アムロの兵士としての成長

ファーストガンダムの中でも異色のエピソードである第15話
「ククルス・ドアンの島」。
「作画崩壊」とネタにされることも多い回ですが、戦争を描いたエピソードとして印象が強いです。
ファーストガンダムは前半はアムロの少年から戦士への成長を、後半はさらにニュータイプへの覚醒を描いているのがストーリーの本筋ですが、その大きな流れの中で挟み込まれている1話完結の回で、戦争を間近な視点で描いている特異なエピソードがいくつかあります。
第13話「再会、母よ…」では戦争の渦中に突然放り込まれ戦士として成長せざるを得なかったアムロに対し、その外側に立ち彼を非難する母親カマリアを描くことにより、当事者と傍観者の超えにくい断絶を浮き彫りにして、戦争を表現します。
また第28話「太平洋、血に染めて」での戦下で戦争と折り合いをつけながら懸命に生きるミハルの悲劇は、一般市民視点での戦争の平等性(誰にも差別なく悲劇が起こりうる)の容赦なさを感じさせます。
この2話はアニメの中の戦争がフィクションとして描かれていることが多い中、リアルな手触りを持って描写されていて強い印象を残しました。
ちょうどウクライナでの戦争が展開されている中で、我々はニュースなどの報道を通じてそれを見ていますが、どうしても傍観者の視点になってしまいます。
第33話「コンスコン強襲」で、ジオンとホワイトベースの戦いを中継で見ている市民たちが描かれていますが、それと同じ視座です。
この話では同じようにガンダムの戦闘をテレビで見て狂喜するアムロの父、テム・レイも登場しますが、戦争を傍観者としている点でカマリアと同じです。
第13話、第28話はそのような傍観者としての視座ではなく、戦争が引き起こす出来事を市民の視点を入れて描くことにより、見ている者にリアルな手触りの戦争を感じさせます。
この映画の元となった第15話「ククルス・ドアンの島」もそのようなエピソードであったと思います。
タイトルに名前が出ているドアンはジオン軍の脱走兵であり、戦争孤児となった子供たちを隠れながら守り育てています。
彼はジオン軍の中でも実力がある戦士であり、使い古されたザクを駆り、子供たちを守るため訪れる連邦やジオンのモビルスーツを屠ってきました。
この辺りはテレビのエピソードと同様なのですが、映画は異なる点もいくつかあります。
映画は監督である安彦良和氏のオリジン版をベースにしているということで時間軸が異なります。
テレビ版ではドアンの島をアムロが訪れるのは地球降下後割とすぐですが、オリジン版ではジャブロー戦以降となっているとのこと。
これで何が違うかというと、おそらくアムロが兵士としてどの程度成長しているかということだと思います。
テレビ版ではまだ兵士としての自覚はあまりない状態(ブライトに張り倒される前ですので)ですが、おそらく映画ではジャブロー戦を経て、兵士として行動できるようになっているような気がします。
それが如実に出ていたのが、アムロがガンダムで生身のジオン兵を踏み潰してしまうシーンです。
これはかなりショッキングなシーンではありましたが、兵士としてのアムロとしては、あそこでジオン兵に発見され部隊に連絡されれば、子供たちが危機にさらされるため、手段を問わず、止めなくてはいけなかったのだと思われます。
兵士としてのアムロからすれば、子供たちの世話をするドアンの行動は奇妙にも感じられますが、まだ一般市民の頃の気持ちも持ち合わせている彼は、共感できるところもあったのだと思います。
心情的には兵士と市民の端境にいるのかもしれません。
テレビでも映画でもアムロはドアンに「あなたがまとっている戦争の匂いのせいだ」と言いますが、テレビの場合はまだ戦士にもなっていない少年の言葉としては少々背伸びしすぎているような印象もありました。
しかし映画では兵士として行動できるようになっているアムロですので、このセリフも言ってもおかしくないと感じました。
このアムロは巻き込まれて生きるために戦っているのではなく、兵士として自覚を持って戦争に向かい合っているからです。
そんな彼が、自覚が持って戦争を降りたドアンに対し、降りるのであればしっかり降りねばいけないというアドバイスを送ったのだと感じました。
本作で描かれる戦闘は小規模な局地戦であり、俯瞰した戦争というよりは人間の目線からの見上げる戦争のように感じます。
それは戦争の中にいる市民の目線である訳ですが、アムロはそこから意志を持って戦争というものに向き合っていこうとしているということを強く感じました。

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