「シン・ウルトラマン」 オリジナルへのリスペクト溢れる
小学生の頃、怪獣ブーム(再放送で見ていた世代)であったので、「ウルトラマン」には相当な思い入れがあります。
「レオ」までの怪獣はほぼ名前を言えるのではないでしょうか。
「シン・ウルトラマン」の脚本の庵野さん、監督の樋口さんは私よりもちょっと上の世代で、リアルタイムで見れていると思います。
庵野さんが「ウルトラマン」に対して強い思いを持っているのは、大学生の頃に自主映画で「ウルトラマン」を作っていたことからも有名です。
私も大学生になっても特撮好きだったので、庵野さんの自主映画は伝説的な作品として語り草になっていました。
「シン・ゴジラ」で一般的にもメジャーになった庵野さん、平成「ガメラ」でリアリティのある怪獣映画を撮った樋口さんがどのように「ウルトラマン」を新作として作り上げるか、期待がありました。
同時に不安もありました。
いわゆるリブートは旧作を現代的に作り直すという場合と、新解釈をして再構成するという場合がありますが、本作はどちらだろうか?ということですね。
新解釈の場合は、自分の大切にしていたものと違う時、期待を裏切られる可能性があります。
結論から言えば、本作は旧作を大切にしながら現代的にアップデートするという前者の作りであり、非常にオリジナルに対するリスペクトあふれるものでした。
前半戦は次々に日本を襲う禍威獣たちとそれに対抗する禍特対を描きます。
BGMはオリジナルの「ウルトラマン」のものばかりで当時の記憶が蘇ります。
ちなみに選曲は庵野さんが手がけていて、彼のこだわりぶりが感じられます。
個人的にこの場面でこの曲を選ぶという感覚がドンピシャでした。
ザラブのニセウルトラマンやメフィラスの人間巨大化など、印象的なエピソードも踏襲していました。
あの当時も衝撃的でしたが、それを現代の技術で再現するのは感無量ですね。
一番リスペクトを感じたのはウルトラマンという人格を描いたというところです。
第二次怪獣ブームは第二次変身ブームと言われることもあり、同時期には「仮面ライダー」も放送されていました。
「仮面ライダー」はまさに「変身」であり、ある人格(例えば本郷猛)が姿を変えて仮面ライダーになりますが、人格はそのまま本郷猛のままです。
これは当たり前のようですが、「ウルトラマン」では異なります。
ベータカプセルを使用する前はハヤタ隊員ですが、ウルトラマンになった後はハヤタの人格が残っているかはよくわかりません。
人格がないわけではない(首を傾げたりする仕草があったり、子供たちのことを考えて怪獣を倒さなかったりするので)とは思いますが、ハヤタと同一人格かはよくわかりません。
つまりウルトラマンの人格はよくわからないのが、オリジナルの「ウルトラマン」なのです。
本作でもウルトラマンと神永は「融合」と表現されていました。
余談になりますが「ウルトラセブン」がセブンが以前に見た地球人の男の姿を真似て「変身」してモロボシダンになっているので、モロボシダンの人格はセブンそのものです。
あまりウルトラマンの人格が描かれなかった「ウルトラマン」でそれが強く表現されているのが、最終回です。
映画でもほぼそのまま再現されていますが、ウルトラマンがゼットンに敗れ、ゾフィに光の国に連れ戻されようとする場面です。
そこでウルトラマンは自分の意志として、地球人への思いを語ります。
「シン・ウルトラマン」ではこのウルトラマンの意志の部分を全編を通して描こうと試みました。
そのようにして逆に地球人・人類を描こうとしています。
本作に対して影響を与えているエピソードとして37話「小さな英雄」があります。
このエピソードでは、科特隊の技術担当のイデ隊員はいつも新兵器を開発をしても結局は怪獣をウルトラマンが倒してもらうことに無力感を感じます。
人類は怪獣には敵わない、ウルトラマンに任せたほうがいいのではないかと。
結果、イデたち科特隊はウルトラマンのサポートで怪獣を倒すことができます。
これは人類が自らの力で危機を乗り越えようとする意志と力を持つことができるという非常に前向きなエピソードでした。
ウルトラマンはそのような人類の可能性を愛し、最終回のゾフィーとの対話に繋がったのだと思います。
そのようなウルトラマンの思いを本作では深掘りをしたのでしょう。
本作でも科学技術担当の滝が圧倒的なゼットンの力を目の前にして、イデのように無力感を感じる描写がありました。
しかし彼もまたウルトラマンの期待にこたえ、立ち上がり人類の知恵を結集してゼットンに対抗しようとします。
自らの運命を切り開くために戦う人類の力を、ウルトラマンは信じました。
そのようなオリジナルで描ききれなかったウルトラマンの人格、思いを描こうとしたのが「シン・ウルトラマン」だと思いました。
庵野・樋口両氏らしいオリジナルへのリスペクト溢れる作品になったと思います。
とはいえ、ちょっと映像的には気になるところもありました。
「ウルトラマン」で非常に印象的な映像をとった監督で実相寺昭雄という方がいまして、その構図を「実相寺アングル」と言ったりします。
庵野さんはかなりこれが好きで、アニメでも実写でも実相寺監督的なアングルを狙うことが多々あります。
本作では非常に実相寺アングルを多用していて、それがやや鼻につきます。
効果的に使えばいいとは思いますが、これでもかというほど使っているので見づらい感じがありました。
極端なヨリも多用していて、これは普通のカメラだと寄り切れないからか、ハンディのビデオ的な映像となっていて、画面の質感が他と合っていないところもいくつかありました。
庵野監督の実写作品ではしばしばこういう感じのところはあるので、あまりその辺りは気にしないのかもしれないですが、私はちょっと気になりました。
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