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2022年5月22日 (日)

「鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー」憎しみの連鎖

前作の「鋼の錬金術師」はあまり評判が良くなかった記憶があります。
その多くは原作で描かれている舞台と登場人物がヨーロッパ風であるのに、演者が日本人であったため、イメージが違うということだったと思います。
当時私は原作を読んだことがなく、先入観なしに映画を見ましたが、皆が言うほどには悪いという印象はありませんでした。
むしろ、「等価交換の法則」が意味する何かを手に入れるために、何かを差し出さなければいけないというテーマには深さを感じたものです。
前作を見た後に原作に手を出し、一通り読みました。
今回は原作を読んでいるので「先入観あり」での鑑賞になります。
ですが、印象は悪くなかったです。
むしろ良いかもしれません。
まず今回新たに登場するキャラクターですが、演じる俳優の方々のキャスティング、演技もあって、非常にシンクロ率が高かったと思います。
個人的には原作ものの映画でシンクロ率が高くても、それ事態は映画の質にはあまり関係ないと思っていますが、合っているであれば越したことはありません。
シンクロ率が高いなと思ったのは、舘ひろしさん演じるブラッドレイ大総統、渡邊圭佑さんのリン、内野聖陽さんのホーエンハイム。
原作のイメージぴったりでした。
山本耕史さんのアームストロング大佐は反則ですね(笑)。
今回のキーパーソンであるスカーの新田真剣佑さんは原作のイメージからするとちょっと若いかなと思っていましたが、思っていたよりはハマっていたと思います。
ストーリーも多少エピソードの順番入れ替えは合ったように思いますが、おおむね原作通りだったと思います。
本作を制作するにあたり、スタッフも出演者も原作へのリスペクトを持ってあたったということを聞きましたが、それが感じられる作りになっていたと思います。
ちょうど今、世界は侵略戦争を目にしています。
そこで命を失う人々のニュースを日々耳にします。
まさに「理不尽」としか言いようがありません。
その理不尽により、憎しみが生まれ、そしてまた繰り返し憎しみが生産されていく。
それを我々は目撃しています。
本作はフィクションですが、まさに戦争の理不尽さと、憎しみの連鎖をテーマにしています。
劇中でスカーの師が口にする「憎しみの連鎖を断ち切るには誰かが耐えなければならない」という言葉は真実ではありますが、当事者にはあまりにつらい言葉です。
肉親を理不尽な暴力により失った者の気持ちの行き場はどこになるのでしょう?
スカーのやったことは許されることではありませんが、共感できないことでもありません。
ただこれを続けている限り、連鎖に終わりはありません。
だからこそ本作でウィンリィの行為にスカーは自分にない強さを感じたに違いありません。
スカーは自分の中にある憎しみに耐えられなかった。
しかし、ウィンリィはそれに耐えようとしている。
自分にない強さを感じたからこそ、彼はウィンリィを守ろうとしたのでしょう。
よくよく考えれば本作に登場するキャラクターの多くは、罪を背負っています。
命令とはいえ、虐殺に手を貸したマスタング大佐、ヒューズ中佐、アームストロング少佐、ホークアイ中尉は皆その罪を自覚しています。
何かを叶えるために何かを犠牲にしようとする。
それは異国から来たリンたちも同じです。
そしてエルリック兄弟も。
まさに等価交換の法則です。
何かを願うことは悪いことではない。
けれどそのために誰かの願いを犠牲にできるのか。
これは本作を通じて描かれるテーマなのだと思いました。

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