「ベルファスト」あの頃の分断
ケネス・ブラナーの半自伝的作品で、描かれているのは1960年代の北アイルランド、ベルファスト。
あまり日本人には馴染みはないかも知れないですが、北アイルランドは複雑な土地柄です。
16世紀のヨーロッパ宗教改革の時に、イングランドはローマ・カトリックから離反して、プロテスタントに改宗しました。
アイルランドは元々カトリックですが、そこへプロテスタントのイングランドが進出してきたのです。
その後、アイルランドは併合されイギリス(大ブリテン王国)の一部になりました。
イギリスは一つの国家のように思ってしまいがちですが、イングランド、ウェールズ、スコットランドの連合国です。
いったん併合されましたが、その後アイルランドは独立します。
しかしその時北部の州の一部(北アイルランド)はイギリス人残留します。
北アイルランドはアイルランドに合流すべきという考えの人々とイギリスに留まるべきと考える人々の間で対立が生まれ(ブレグジットのようです)、内戦のような状態になります。
私が10代の頃は度々ベルファストでテロが起こったなどのニュースを聞いた記憶があり、ちょっと怖い場所というイメージがありました。
本作で描かれているのは、そのような社会の中で対立が生まれている時代です。
とはいえ、元々市井の人々はカトリックもプロテスタントも、ナショナリスト(アイルランドと一緒に一つの国となるべきと考える人)もユニオニスト(イギリスに留まるべきと考える人)も一緒に隣人として暮らしていたわけです。
本作の主人公である少年バディ(家はプロテスタント)が恋する少女の家はカトリックです。
しかし社会は急速にカトリックVSプロテスタントもしくはナショナリストVSユニオニストという対立の構造が顕在化して、人々にもどちら側かということを決めるべきという圧力がかかります。
まさに「分断」であり、今の世界が直面している課題でもあります。
ケネス・ブラナーが今この作品を作ろうと思い立ったのも今の時勢を考えてのことかもしれません。
本当に普通の人々は対立したいなど望んでいなかったのに、急速に社会が分断され、居場所がなくなってしまう。
誰にとっても不幸なことです。
多様性の重要性が語られるようになってきていますが、それに反するように分断も激しくなってきているようにも思います。
| 固定リンク
コメント