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2022年1月16日 (日)

「クライ・マッチョ」二人の人生の交流

クリント・イーストウッド演じるマイクは元ロデオスター。
事故により引退し、その上妻子を事故で失い、酒や薬に溺れ置いて落ちぶれてしまった男です。
昔ながらのカウボーイというのは男の中の男(まさにマッチョ)というイメージがあり、憧れと共に語られることが多いですが、現代においては過ぎ去った古き良き時代のものとも受け止められますね。
イーストウッド自身はかつてマッチョな男たちを演じてきましたが、「許されざる者」以降からは、時代の変化とともにそれまでの価値観や見方が変わっていっていることに面することなるそのような男たちを描いてきていると思います。
本作の舞台となっているのは80年代で、まだマッチョな男たちが憧れであった時代。
しかしマイク自身はすでに老い、若い頃自分が信じていた価値観そのものが自分の中で変わっていることを自覚しています。
若い頃は、強いことが正義であり、誰にも負けない男であろうとした。
しかし、さまざまなものを失い、そして自身からも強さが失われていったとき、自分の中に何も残っていないという自覚があるように感じます。
この辺りは最近のイーストウッド主演の作品に通じるところがあるかと思います。
この作品でイーストウッドと共に旅をすることになるラフォという少年。
彼は母親に反発し、ストリートで生活しています。
今の生活から脱出したいと考えており、そのためには自身が強くなりたい、マッチョになりたいと考えています。
本作は男らしい男になりたいと願う少年と、そのことへ価値を感じられなくなった老人とのロードムービーになります。
二人は互いに影響を与え合います。
マイクからすれば、少年の描く夢はいつしか挫折し、自分のように後悔を感じることになるかもしれないとも思っているでしょう。
しかし、だからと言って少年の行く道を否定するわけではありません。
そして少年も、マイクは年老いた自分の中には何もないと思っていたかもしれませんが、彼の中には強い男が持っているやさしさが依然としてあることに気づかさせてくれます。
マイクは旅の途中で会った女性とその家族や街の人々と交流する中で彼の優しさを人々が認め、そこが彼にとって大切な場所となっていきます。
少年が歩み始めた道には挫折もあるでしょう(父親との暮らしも多難なことが想像できる)。
しかし、彼はマイクとの交流により強い男には強さだけが求められるわけではないことを知りました。
そしてマイクも自分の中に残っているものがとても大事であることに気づき、人生最後の時間に最も大切な場所を得ました。
全く歳が異なる二人のしばしの旅路の中でそれぞれの人生に影響が与えられたことを描いた作品でありました。

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