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2021年10月11日 (月)

「護られなかった者たちへ」 手が届く人を護り抜く

現代社会が抱える社会的ないくつもの課題を取り上げ考えさせながらも、ミステリーとしてエンターテイメントとしても見応えがあり、そして登場人物たちの感情にも大きく心揺さぶられました。
ですので、どこから手をつけて感想を書いていいかわからないというのが正直なところです。
この物語の発端となるのは東日本大震災です。
まだ10年程度しか経っておらず、まだ生々しい記憶が残っている未曾有の災害でした。
人間の力ではどうしようもない、圧倒的な自然の力により、あっという間に普段の生活が破壊されてしまった。
家も家族も全て失ってしまった人々が多くいました。
予想もしていなかった理不尽な出来事により大切な人を失ってしまった憤りや先の見えぬ不安は現在のコロナ禍にも通じるところもあります。
本作で震災と共に大きなテーマとなっているのが、貧困です。
こちらについてもコロナによって職を失ってしまうことによる貧困の問題が昨今語られています。
持続化給付金など国もさまざまな施策を行っているものの、本当に届けたい人々に届けきれていないという課題があります。
実際にいくつか逮捕者も出ていますが、不正受給の問題もあります。
生活保護は最後のセーフティネットであるのにも関わらず、本当に必要な人はこぼれ落ち、不正で恩恵を得る不届き者もいます。
そもそもは全ての人が人間らしい最低限の生活を送るためという理想を具現化するための制度ですが、うまく運用できないという現実。
格差社会の深刻度が高くなるに従い、その対象者は増え続け、そしてまた不正も増える。
その制度を運用する人々も理想と現実のギャップに次第に疲れていくのもわからなくはありません。
本作で描かれる事件の犠牲者たちも元々は理想を目指していたのではないかと思います。
しかし、いつからか疲れ、本来は人々を守るため制度を運用するはずだったのに、いつしか制度を守るようになってしまったのかもしれません。
人々は救いたいが、制度が崩壊すれば救うべき人々が救えなくなる、そのような葛藤が彼らを疲れさせてしまったのでしょうか。
全ての人を護る、という理想は普通の人には少々重いのかもしれません。
しかしだからと言って、人を護ることを諦めていいわけではない。
人はその手が届く人はしっかり護るということを第一に考えていくのが大切なのかもしれません。
家族とか身近な人とかを。
主人公の利根が大切に護ろうとしたのは、本当の家族と思える人たちです。
かつて救えなかった命があったからこそ、自分の手を届く大切な人は護りたいという彼の思いはぶれなかった。
そのためには困難なこともあるかもしれない。
けれどその思いはおそらく護られる人々にも伝わるはず。
救われた者がいずれはまた誰かを救うようになっていくと素晴らしいことなのですよね。
本作の原作は中山七里さん。
どんでん返しの帝王と呼ばれる中山さんですが、本作もラストもかなり衝撃的でありました。
そしてラストで判明する利根と彼を追っていた刑事の人生が交わっていた震災時の出来事。
これもある種のどんでん返しですが、素晴らしかったです。

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