「レミニセンス」過去へ向くか、未来へ向くか
バラ色のイメージがあった未来に対し、闇の中でけばけばしいネオンが輝き、雨でジトジトとしているディストピアの強烈なイメージを「ブレードランナー」を作りました。
それは良くも悪くも後続の映画に影響を与え、多くの作品でこのイメージが踏襲されました。
時代的には放射能汚染や公害などの人類の文明の負の側面がこのビジュアルに表れていたのだと思います。
本作もディストピア的なイメージを描写しますが、「ブレードランナー」とは違いました。
舞台となるのはマイアミ。
しかし、海面上昇により街に大半が水没しています。
昼間の気温がかなり高くなっているため、人々は昼間に寝て、夜に活動するというライフスタイルになっています。
これは温暖化によるものでしょうか。
人々が暮らす土地自体がなくなってしまったため、この時代は土地を持っているもの、すなわち地主が権力を握っています。
一部の持てる者が支配をしているため、人々は未来への希望を失いかけています。
<ここからネタバレありです>
主人公ニックはある装置を使い、クライアントに過去の記憶を再体験させることを生業としています。
人々は自分が幸せであった時を繰り返し繰り返し体験しようとします。
これはある種の逃避であって、あまりに過去の記憶に溺れ過ぎることは危険でもあります。
ニックや相棒のワッツは何度も同じ記憶を体験しにくるクライアントに危うさを感じつつも、彼ら自体は過去へ執着は持っていないようでした。
現実逃避の手段としてドラッグやアルコールも本作では出てきます。
ドラッグもかなり社会に浸透してしまっているようで、ニックが心惹かれるメイもかつて薬に溺れていたことが明らかになります。
ワッツはアルコール依存症のように酒を飲んでいますが、彼女にとって過去はバラ色のものではなく、忌避するものであったのでしょう。
ニックにとっても過去は価値のあるものではありませんでした。
メイに出会う前は。
会ったその時から彼女にニックは心惹かれ、そして二人で幸せな時を過ごすようになります。
しかし、ある時彼女は突然彼の前から姿を消したのです。
メイを失ったニックは彼女との思い出の記憶に溺れます。
そのような状況の中で警察から請け負った仕事の中で、メイが生きているかもしれないという気づきます。
彼は失ったものをもう一度手に入れようと探索を続けますが、結局彼女は死んでしまします。
今度こそニックは永遠に彼女を失ってしまったのです。
犯人の記憶を探ることにより、ニックはメイも彼のことを愛していたという本当の気持ちを知りますが、それでも彼女を生き返られることなどはできるわけもありません。
結局、全てのカタがついた後、ニックは記憶再生装置に接続し、永遠にメイとの思い出に浸ることとなったのです。
未来に目を向けようとしても、そこにはもうメイは失われてしまっている。
希望は全くない。
彼にとって唯一バラ色であったのは、メイと過ごした時間のみ。
ニックにはそれしか選択肢がなかったのでしょう。
彼に対し対照的であったのは相棒のワッツでしょう。
彼女はニックへ愛情を持っていたようですが、彼女も彼を失ったこととなります。
しかし、彼女には唯一未来へ目を向けられる大切なもの、自分の子供がいました。
彼女にとっての過去は忌むべきものであり、子供の存在もあり、目を未来に向けるしかなかったのだと思います。
ずっと二人で相棒としてきたニックとワッツは必然的に過去と未来へ袂を別ったのだと思います。
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