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2021年3月20日 (土)

「すばらしき世界」 すばらしき世界とは?

西川美和監督の作品は人間や社会を深く抉るところがあるので、見る側としても、それなりに覚悟が要ります。
ですので、自分なりに調子がいい時に行こうと思っていたら、公開している劇場が絞られ始めてきていたので、慌てて見に行ってきました。
やはり本作も考えさせられる作品でした。
今年に入って見た「ヤクザと家族」でも描かれていましたが、昨今反社会的勢力という存在はなかなか生きにくい時代です。
もちろん一般庶民としては、そのような方々とは関わりたくないというのが本音です。
しかし、映画という世界の中ではヤクザはある種のファンタジーとして存在していました。
昭和の時代には東映のヤクザ映画が全盛でしたが、そこで描かれているのはファンタジーとしてのヤクザであったのかもしれません。
すなわち世間のしがらみや法律などには縛られない存在であり、義理や人情など損得勘定とは違った価値観で動いている人々。
戦後民主主義が押し進められ、そして一億総中流と言われた時代に、社会や会社に縛られない存在はある種の憧れであったのかもしれません。
しかし、今現在彼らは反社会勢力として徹底的に社会から排除されています。
もちろん犯罪を犯してしまってはいけませんが、その後の更生も非常に難しいものがあることが本作では描かれています。
以前はある種の憧れが反映されていると書きましたが、今は汚れたものを見るような目線であり、そういう点において以前とは逆の方向で社会から隔絶しているのですね。
社会の中では全ての人がそこにきちんと収まるということはなく、幾人かはドロップアウトしてしまいます。
人や社会から必要ではないというように感じてしまう。
本作の主人公の三上もそのような男でした。
彼の受け皿となったのがヤクザでした。
彼は数々の犯罪に手を染めましたが、少なくとも必要とされていると感じていました。
自分の居場所があったのです。
しかし、この現代10数年ぶりに社会に帰還した彼は自分の居場所を見つけられません。
どこに行っても元反社であるというレッテルはついて回りますし、また彼の性向としてもすぐにカッとしてしまう癖は無くなっていません。
それでも社会に馴染もうと思いますが、数々の問題が起こり、その度に彼は憤りを感じます。
幼い頃、彼は母親に捨てられました。
彼自身は捨てられたとは思わないようにしているのですが、母親に必要にされなかったという思いがあります。
やはり、社会に戻っても自分は必要とされていないという気持ちになったでしょう。
しかし、彼のことを思う人は決していない訳ではなく、身元引受人となってくれた弁護士夫妻、彼を取材しているディレクター、行きつけのスーパーの店主、役所の担当者などの支えがあり、ようやく居場所を見つけていきます。
やはり、人は誰かを必要とし、必要とされる関係性が確立できることにより、自分が生きていいという実感を得られる存在なのでしょう。
三上が最後亡くなってしまいますが、その時は彼は人生の中でも最も人に必要とされた時であったのだと思います。
決して悪くない人生であったと思って亡くなったのだと思いたい。
そこにタイトルの「すばらしき世界」という文字が入り、彼の思いを表しているような気がしました。
 
とはいえ、西川作品なので、そういう表層的な捉え方だけではないかとも思いました。
三上の就職祝いの席で弁護士夫妻は、彼の悪いことは許せないという正義感は認めつつも、社会に馴染むにはある種我慢したり受け流したりすることも必要だと諭されます。
その後、彼は職場でのいじめや陰口などを目にしますが、彼は恩人のアドバイスを大事にして、受け流します。
その時の三上の彼らしくない表情や苦しみは、これが本当に生きているということなのかという疑問を持たせるものでもありました。
弱きを助けてはいけないのか。
見て見ぬふりをするのが良いことなのか。
そういう社会が「すばらしき世界」なのかと。
そういう意味でこのタイトルはダブルミーニングとなっており、相変わらず西川作品は深いなと感じました。
 
今まであまり注目はしていなかったのですが、仲野太賀さんはいいですね。
次第に三上に共感を持っていく様子、そして彼の死に直面し、取り乱し呆然とする様。
演技ではありますが、彼が演じる津乃田の気持ちがありありと伝わってきました。
これからも要チェックの役者さんです。

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