「TENET テネット」考えるな、感じろ
クリストファー・ノーランの最新作です。
時間の逆行を題材にするという話は聞いていたので、「メメント」「インセプション」「インターステラー」的な複雑な構造の作品かと思い、伏線などを見逃さないようかなり集中して鑑賞しました。
にもかかわらず、中盤くらいまでは劇中で起こっていることが理解できずにいました。
というのも、世界の時間全体が逆行するわけではなく、時間が順行する中に、逆行する人や物があるという状況がなぜ起こっているかがわからなかったからです。
途中まで話が進んだ時に、これは考えながら見てはいけない、とふと思いました。
なぜこういう状況になっているかという謎解きの部分を考えながら見ていると、そこが気になってストーリーから振り落とされると気づいたのです。
この作品はノーランが語る物語に身を任せて、見ていった方がいい。
まさに「考えるな、感じろ」です。
語りに身を任せて見てみると、ストーリーはそれほど複雑でないことに気づきます。
主人公である「名もなき男」も最初は全容がわからないままに、絡まった紐を解くかのように任務を進めていきます。
彼と同じように、訳がわからないままに物語を見ていけばいいのです。
ストーリーテリングはノーランにしてはとても親切なので(設定が複雑なためそのようにしたのか?)、ついていく事は難しくないと思います。
<ここからややネタバレ>
原題の「TENET」とは信条という意味ですが、文字の並びが怪文となっています。
回文とは頭から読んでも、後ろから読んでも同じように読めるという文章のことを言います。
まさにこの物語は回文の構造となっています。
時間の通常の過去から未来へという通常の流れと、逆の未来から過去へという流れが混在している様を描きます。
本作の中で時間を逆行させることができる装置として「回転ドア」が出てきます。
その「回転ドア」を中心にして時間の流れが逆行する。
「回転ドア」を回した時が特異点のようになります。
このような時間の中での特異点がいくつか物語の中で登場しますが(オスロの空港のシークエンスなど)、物語全体で見た時の時間の中での折り返し地点と現在の中間にある特異点が、クライマックスでのシベリアでの爆発になるのでしょう。
ここが全ての出来事の終わりとも言えますが、全ての出来事も始まりとも言えます。
主人公は日本のパンフレットでは「名もなき男」と書かれていますが、タイトルの英語では「protagonist」とあります。
「protagonist」」とは「主役」という意味であり、「主唱者」という意味でもあります。
まさに本作の冒頭ではただの駒、パーツとして扱われていた男こそが、この壮大な作戦を作り上げた「主役」であることが明らかになるのです。
「主唱者」でもある彼は「TENET(信条)」を唱える者でもあったわけです。
基本的には主人公たちの時間の流れ(順行)で物語は進みますが、彼らが見たり体験したことは逆行してきた者たちが引き起こしたことであることがわかります。
そうなると、この物語はあらかじめ決められた出来事を追っているということなのかもしれません(運命論的な)。
とはいえ、この物語は全てがうまくいったというバージョンのものかもしれず、彼らの作戦が失敗したという幾つもの他のバージョンがある(いわゆるマルチユニバース的な)見方もあるかもしれません。
最初に見るときは、あまり考えずに感じるままに見るのが正解で、見終わった後に考察して、その後もう一回見るのがいいのかもしれません。
映像に関しては文句なし。
これはどうやって撮っているのだ?と考える場面が所々にあります。
順行の者と逆行の者の格闘シーンなどもどうやって撮ったのかさっぱりわかりません。
クライマックスの戦闘シーンも全くどうやっているだか・・・。
ノーランの頭の中はどうなっているか一度見てみたい。
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