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2020年3月19日 (木)

「初恋」 ロマンとバイオレンス

三池崇史監督は好きなのですが、ここ数年の作品に関しては何かバランスが悪い感じがしていていました。
特に直近の「ラプラスの魔女」は三池監督らしくなかったと感じたのですが、さて三池監督らしいは何なんでしょうか?
バイオレンス?
もちろんこれも「らしさ」の一つでしょう。
ただ「テラフォーマーズ」や「無限の住人」でも特徴の一つであるバイオレンスの表現はありましたが、何か足りないというバランスが悪い感じがして仕方がありませんでした。
本作「初恋」を観終わった後、久しぶりに三池監督らしい作品であったと感じたのですが、それでやっと「らしさ」が何であるかわかったような気がします。
それは「ロマン」なのではないでしょうか。
「生き様」と言い換えてもいいです。
バイオレンスが特徴とされる三池作品は、実はロマンティックさも魅力のひとつなのだと改めて感じました。
本作ではヤクザとチャイニーズマフィアの激突が描かれるので、もちろんバイオレンスはたっぷりです。
しかし、それ以上にロマンティックさがある。
冒頭に登場するチャイニーズマフィアの女殺し屋チアチーが酒を飲みながら、今の日本人には「仁がない」というようなことを言ってボヤきます。
彼女は高倉健の名前を出しますが、日本のヤクザは仁義を重んじると考えていたが、現実はそうではないと言いたかったのでしょう。
確かに現実的にはヤクザの世界も世知辛い。
仁義を重んじるヤクザはすでになく、皆がイメージしている仁に厚いヤクザの姿は数々の映画などで作りあげられてきたファンタジーなのかもしれません。
本作に登場する多くの人物もそのような仁義を持ち合わせる人物は少なく、私利私欲のために動きます。
誰かを騙して自分だけが得をしようとする。
そのような人物が多い中で、ピュアすぎる主人公のレオとモニカの存在が際立ちます。
捨て子であったせいか、レオにははそもそも感情が薄いような、何か乾いている印象を受けます。
そしてさらに彼は自分の死が間近であることを知り、自分の人生が無意味であったように感じ、空虚さを感じるのです。
そしてもう一人の登場人物モニカは幼い頃より強い者に虐げられ、何かを望むことがありません。
ただ従順に言われたことを諾々とやっている。
彼らは望むことがない人々であり、欲に塗れた他の登場人物とは異なります。
その二人が出会い、レオはモニカを助けることだけを唯一の望みとして一緒に逃亡します。
彼は彼女を救うことに自分の存在する意味を感じたのかもしれません。
彼の思いは相手に何も求めないからこそ非常にピュアです。
実際の世の中に彼らのような純な人はなかなかいない。
ファンタジーとも言えるわけですが、だからこそロマンティックなのです。
三池監督は恋愛ものは初めてということですが、二人のピュアな想いを丁寧に描けており、改めて監督もロマンティックな人なのではないかと思ったのです。
他にもロマンのある人物が登場します。
登場するヤクザの中でも武闘派と言われ、チャイニーズマフィアと戦いを繰り広げる権藤です。
彼こそがヤクザ映画の中で描かれるファンタジーとしてのヤクザであったと思います。
売られた喧嘩はしっかりと買う、というある意味真っ直ぐなヤクザとしての信念を持っている。
計算高さはまるでない。
そういう意味では彼もピュアであるとも言えます。
そして冒頭にも紹介したチャイニーズマフィアの構成員であるチアチー。
彼女も仁義を大切に考える人物でした。
権藤もチアチーもその心情としては共通点がある二人でした。
もし彼らがもっと早く出会っていたら、展開も変わっていたのではないかと思うと少し寂しいものもあります。
今の世の中、彼らのような仁に厚いヤクザなどは存在しないとすると、彼らの存在もファンタジーであり、ロマンティックな存在です。
彼らはそういう人物だからこそ、レオとモニカをそれぞれ救ったのでしょう。
レオやモニカ、権藤、チアチーの存在が、油断のならない他の登場人物たちとの対比で浮かび上がります。
これはロマン(ファンタジー)とバイオレンス(現実)の対比なのかもしれません。
実はこれは三池作品に通底するものような気がしたのです。
こう考えると最近の作品で感じた「らしくない」感じは、このバランスがうまくいってなかったからかもしれないと思ったのです。
本作はそのバランスが非常に良く、さらにはロマンとバイオレンスの対比が明確に感じられるということで、三池監督の代表作と言っていいかもしれないと思いました。

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