« 「SHADOW/影武者」 陰陽変転 | トップページ | 「ヘルボーイ(2019)」 原作の雰囲気に忠実ではあるが凡庸 »

2019年9月29日 (日)

「記憶にございません」 生き方を変えるファンタジー

人生も半ば過ぎまで生きてきて、それが子供の頃想像していた将来の姿と同じかと言われると全然違うものですよね。
個人的にはそれはそれで悪くない人生であったと思ってるわけですが、こんなはずじゃなかったと思う人もいますよね。
それでは、人生を改めてやり直すことができるのかというと、既にいろんなしがらみがあって、そのようなことは無理なわけです。
本作は政治コメディの体裁ですが、政治の風刺というよりは、人生をやり直すことができたらということをテーマにしたファンタジーと言えるかもしれません。
ただし本当にファンタジーでない限りは失われた時を取り戻すわけにはいかないので、人生をやり直すというよりは、生き方をリセットするということを描いていると言えるでしょう。
過ぎ去った時間は取り戻すことはできなくても、生き方を変えれば、その後の人生は別のものに変えることができるかもしれません。
しかし、生き方を変えるというのもなかなかの至難の業。
それまで生きてきて積み重ねてきたものが自分の中にも、自分の周囲の人々のなかにもあり、それが自分というものを作り上げているからです。
自分の中はあるきっかけがあれば変えることができたとしても、しがらみがそうさせてくれない。
本作の主人公である黒田は政権の支持率がかつてないほど低い、多くの国民に嫌われている内閣総理大臣です。
国会や記者会見では暴言を吐く、強引な政権運営をする、汚職まがいなことを裏ではしている、そして不倫なども・・・。
好きになるのが土台無理そうな悪徳政治家です。
どこかの国にもいるような感じが致しますが。
さて、その首相が演説の最中に頭にくらってしまった石礫のおかげで、記憶喪失になってしまいます。
子供の頃は別にして、政治家になった頃からの記憶がまったくない。
それに伴ってか、何故か人格までがとってもいい人になってしまうのです。
そんな彼が自分が嫌われ者であったときのことを知るにつけ、このままで政治を放っておいていけない、しがらみがなくなってしまったからこそ自分には失うものがないと様々な改革を実行していきます。
 
<ここからネタバレがあります>
 
よくよく考えると記憶喪失になることにより、悪人から善人に性格までが変わってしまうのはそもそもおかしい。
ポイントは失った記憶が政治家になってから以降であったということです。
ということは、黒田はそもそもはいい人であったということなのですよね。
元々いい人であったはずですが、政治の世界で生きていくため、性格が変わってしまったのか、それともそのような政治家を演じてきたのかはわかりませんが、石飛礫によって性格がもとのいい人に戻ったということなのですよね。
実は彼は途中から記憶が戻っていましたが、記憶喪失のままでいようとそれを演じてきていたのです。
このあたりは百戦錬磨の政治家らしい。
もともとは夢を持って政治を志していたのにもかかわらず、いつしか生き抜くことが目的となり初志を忘れてしまっていたということに彼は気づいたのでしょう。
記憶喪失になったことによって、皮肉にも忘れていた志を思い出したとも言えます。
だからこそ記憶喪失という苦難を自分が変わり、そして周囲もそれに納得してもらえる一世一代のチャンスにかけたのでしょう。
この辺りも勝負師らしいです。
本当の人生、そんなに生き方を変えられれるかという話にはなるとは思いますが、それはこの物語はやはりファンタジーなのだと思います。
だからこそハッピーな気分になれる。
なかなか自分で自分の生き方を変えることは難しい。
けれど、ほんとのほんとにやる気になれば、できるかもしれない。
そんな希望を持たせてくれる映画のような気がしました。

|

« 「SHADOW/影武者」 陰陽変転 | トップページ | 「ヘルボーイ(2019)」 原作の雰囲気に忠実ではあるが凡庸 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 「SHADOW/影武者」 陰陽変転 | トップページ | 「ヘルボーイ(2019)」 原作の雰囲気に忠実ではあるが凡庸 »