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2019年8月15日 (木)

「アルキメデスの大戦」 鎮めるために沈められた戦艦

日本対アメリカ。
動員力、工業生産力、石油等の資源力、どれをとっても勝ち目のない戦いであった。
それらを冷静に数値を使って分析し、評価できる人であれば、そう考えたであろう。
しかしそうはならなかった。
データはそろっていたのにも関わらず。
人は見たいものだけを見たいように見る者なのだ。
本作の主人公、櫂は帝大で100年に一度の天才と呼ばれた男だった。
彼は、太平洋戦争へ邁進する海軍の象徴となるであろう巨大戦艦の建造を阻むべくその数学の才を駆使する。
折しも海軍では大艦巨砲主義と航空主兵主義の二つの主張がぶつかり合っていた。
大艦巨砲主義とは大口径の主砲と重装甲を持つ戦艦を艦隊の中心とする考え方であり、それに対して航空主兵主義はリーチのある航空機を主戦力とし、それらを搭載する空母を艦隊の中心とする考え方である。
現在のアメリカ海軍を見ればわかるように航空主兵主義の方が現代的な戦略である。
劇中で櫂が指摘しているように大艦巨砲主義は非常に効率が悪い。                
敵艦の速度・加速度・進行方向、自艦の速度・加速度・進行方向、風力・風向などの環境の数値を分析し、着弾する時の敵艦の位置を正確に予想できるかどうかがポイントなのだ。
砲弾は発射した後は、何もできないためだからだ。
太平洋戦争当時、それらの数値を瞬時に計測し、弾道計算をできるようなコンピューターなどは存在しなかったため、砲撃は非常に効率が悪いものだったのである。
航空機は砲弾よりもリーチがあり、その時の状況に合わせて対応可能であるため有利であることは論理的に考えれば明白であるが、当時の海軍ではそちらは主流とはならなかった。
大艦巨砲主義とは武者と武者との戦いのようであり、それに対し航空戦は鉄砲を持ち込んだようなものだったと思う。
圧倒的に国力の差があるアメリカに戦いを挑んだこと、また航空主兵主義が主流とならなかったことは論理的な考え方からすると受け入れがたいものではあるが、そういう道理が通らず、精神論的なものの見方がまかり通っていたのが当時の日本なのである。
櫂らは巨大戦艦建造計画を見積もりの不正確性をつく事により、頓挫させようとする。
櫂はそれに成功し、さらには巨大戦艦の構造上の欠陥をも指摘する。
しかしそれでも巨大戦艦建造計画は止まらなかった。
論理を精神論が越えてしまったのである。
この物語で興味深いのは櫂の試みが失敗してからである。
彼は巨大戦艦の建造責任者である平山中将に呼び出される。
櫂は彼から本当の巨大戦艦建造の目的を聞かされるのである。
平山は巨大戦艦を沈めるために作っていたのだ。
日本が戦争に邁進していくのは軍部だけが望んでいるからではなく、国民全体が望んでいるからである。
その流れは止まらない。
戦いになれば日本人はとことんまで戦い、国は焦土と化して滅んでしまうかもしれない。
それならば国の象徴とも言える巨大戦艦を建造し、それが敵国に無残に沈めらることを持って戦争の無謀さ、己の考えのおかしさに国民が気づくことのきっかけにできるのではないかというのが平山の考えであったのだ。
だからこそこの巨大戦艦に古の日本の名前、大和と名付けるのだと。
戦艦大和は日本の国の依り代であると。
沈めるために作られた戦艦。
まさに国民を鎮めるために。
数字、論理は何事にも揺るがされない事実である。
しかし人間は事実だけで判断するわけではない。
愚かしいがそれが人間なのである。
そのことに櫂は最初は気づかなかった。
それは彼が理想に燃える若者であったからであろう。
平山は彼に比べ人間の本質を知っていたのだ。
このところ隣の国が騒がしい。
こちらから見ると感情的で非論理的に見えるのだが、よく考えてみるとこの映画で描かれている時代では、日本がそのように見えていたかもしれない。
非論理的な思考で無謀な戦いに挑んだのだから。
まだ日本は冷静に振舞えている。
ちょっとは大人になったということであろうか。

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