「ザ・ファブル」 二人の関係
これは面白かった。
事前に大きな期待をもって見たわけではなかったので、余計に得した気分になりました。
オープニングシークエンスからしてかっこいい。
今回岡田准一さんが演じるのは「ファブル」と呼ばれる殺し屋。
彼はどんな相手でも6秒以内に殺すと言われているほどの伝説の殺し屋です。
冒頭のシークエンスでは、彼が依頼を受け、ヤクザとロシアンマフィアの会合を襲うというシーンが描かれますが、これが見応えがあります。
今までも数々の作品で見せてきた岡田さんの身体能力もさることながら、「ボーン・アイデンティティ」などにも関わったファイトコレオグラファーが担当しているということで、本作のアクションはスピーディで洗練されています。
一瞬で状況を判断し、相手の急所を狙っていく様をスタイリッシュなグラフィックで描いているのにも監督のセンスを感じました。
このオープニングで一気に魅了されました。
後半のアクションシーンもなかなかに見応えがありました。
人を殺してはいけないと言われた佐藤は、大勢のやくざ者や殺し屋が襲いかかってくる中でも頑なにその命令を守ります。
いくら6秒で人を殺すことができる男であっても多勢に無勢。
そして守らなければならない人間を背負っての戦いです。
息もつけないほどの緊張感がありながら、センスが感じられるアイデアを盛り込んでいる切れ味の良いアクションでした。
このまま岡田さんのアクションをみせていく作品かと思いきや、ちと違う。
岡田さん演じる佐藤の育ての親とも言うべき、ボスから彼は一年間殺しを封じ、ただの一般人として生活せよという命令を受けます。
とはいえ、彼は子供のころより殺し屋として育てられた身。
いわゆる一般人の生活にはいまひとつ馴染みがないのです。
そんな彼のチグハグな行動が笑いを誘います。
佐藤の思考は、ある目的に最適で確実な方法をとるということと、状況変化に対応して臨機応変に対処するということが基本にあると思います。
ある意味、非常に無駄がない。
とはいえ人間というものは普通はとても無駄があったり、矛盾があったりする行動をとるものなので、だからこそ佐藤の行動が何かおかしさを伴うのではないかと思います。
本人はいたって真面目なのに笑いを誘うという佐藤を演じる岡田さんの芝居のニュアンスも絶妙だと思いました。
佐藤にとってボスの命令は絶対。
人を殺せという命令も。
こう書くと、彼とボスは冷たい関係のように聞こえます。
佐藤はボスに洗脳されたのではないのではないかと。
しかし本作を見ているとこの二人の関係はそのようなものではないと思えます。
佐藤がボスに寄せる気持ちは絶対的な信頼だと感じられます。
洗脳され、刷り込まれてしまったというわけではないようです。
まさに親を子が信頼するような気持ちに近い。
またボスにしても、陰ながら佐藤を守り、支えています。
おそらくずっと自分も殺し屋として生きてきたと思われるボス。
彼がある日、出会った子供の佐藤は一人では生きていけない状態であった。
彼が自分一人で生きていく術を彼は教えたいと思ったのでしょう。
しかし、ボスが教えられるのは殺すということだけ。
彼はそれを佐藤に教えた。
一人で生きていけるようにするために。
そして佐藤もそれを感じ、だからこそ絶対的な信頼を持つようになったのでしょう。
しかし、ある時ボスは佐藤を普通の人間として生きていけるようにしたいと考えたのです。
何がきっかけであったのかはわかりません。
自分のように殺し屋として一生を終えるようにはしたくなかったということなのでしょうか。
もしかしたらボス自身の寿命が尽きようとしているのかもしれないのかなとかも考えました。
自分がいなくなる前に、佐藤が普通の人間として生きていけるようにしたいと思ったのかもしれません。
もうちょっとこの二人の関係性を見てみたいと思いました。
| 固定リンク
コメント