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2019年5月20日 (月)

「バイス」 日米の政治観の違い

ジョージ・W・ブッシュ大統領の時の副大統領であったディック・チェイニーを主人公とした作品。
チェイニーの名前は当時の報道などで聞いていて、副大統領であったこと、あとはネオコン(新保守主義)に属する政治家であることは知っていました。
イラク戦争などを開始したことでアメリカが大きく変わり、それによって世界が変わっていこうとしていた時で、ネオコンという考え方にやや危険なものに感じていたので、覚えていたのだと思います(現在の方がさらに危険な匂いを感じますが)。
とはいえ、具体的にチェイニーが何をしたかということはよくは知ってはいませんでした。
予告を見た時は、大統領ではなく副大統領に目を付けるとは渋いところをついてくるなといった印象でした。
どちらかといえばクリスチャン・ベールがまるで見た目が違うチェイニーになりきって演じている様子に興味を持ちました。
彼はいつも役に合わせて、変幻自在に見た目から何から変えてきますが、その技を見たかったというのが鑑賞理由の第一でした。
確かにクリスチャン・ベールのなりきりっぷりは抜群でした。
「ウィンストン・チャーチル」でチャーチルになりきったゲイリー・オールドマンも素晴らしかったですが、クリスチャンもさすがです。
これも特殊メイクということですが、普段の彼の容貌がわからないくらいの変貌ぶりでした。
彼が演じるチェイニーと、本物のチェイニーの写真を比べれば確かに違うのですが、劇中の彼を見ていると印象はまさに本物のよう。
喋り方なども似せてきているのですよね。
容貌を寄せるだけではなく、その人物の特徴を巧みに捉える技はさすがです。
日本ではなかなか「バイス」のような実際の政治をテーマにした作品は見当たらないですよね。
色々と気を使うことがあるのでしょうが、こういうある政治的なスタンスが明らかな作品も作られるというのがアメリカらしいところだと思います。
どちらかといえば、アメリカで映画を作るような人々の多くはリベラルなので、ネオコンとは逆の立ち位置にいる方が多いかと思うので、この作品のようなスタンスの作品が作られるのだと思いますが。
本作はコメディのような笑いであったり、アイロニーを含んだ描かれ方をしています。
個人的にはアイロニーが効きすぎている気もしましたが、この目線も日本にはあまりない視点です。
日本では政治を笑い飛ばすと不謹慎であるという雰囲気がありますよね。
それは歴史的に政治は社会上高位にある人々が行ってきたという背景があり、庶民は口出ししてはいけないというイメージがあるのかもしれません。
日本では政治が身近ではないとよく言われますが、政治家だけの問題ではなく、一般人も何か遠いものと見るスタンスがあるのではないでしょうか。
アメリカは建国時から民主的な選挙で社会の代表を選び、政治を行ってもらうという体制をとった世界初の国です。
ですので、政治はそもそもが民衆のものという考えがあるのでしょう。
民衆の代表が政治を行っているわけですから、その中には時折おかしなことを言う者も出てくるというのが社会的には折り込み済みなのかもしれません。
ですから、そのようなものが出てくるとからかったり笑い飛ばしたりする。
それは彼らもそもそもが民衆の一人であるからという基本的なスタンスからきているような気がします。
政治とは関わるのは面倒くさい存在というより、大いに関わりあうべき存在なのでしょう。
日米の政治観の違いというのを感じた一作でした。

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