「焼肉ドラゴン」 家族のアイデンティティー
人間、何か自分のアイデンティティーが寄って立つものが必要なものです。
それは国であったり、会社であったり、家族であったり。
日本人などはやはり日本人であること、というのがアイデンティティーが寄って立つ柱の一つであると思うんですよね。
どの国の国民もそうだと思うのですが。
この物語の中心となる家族は、戦前に日本に連れてこられそしてそのまま日本に住むことになった朝鮮半島の人々。
いわゆる在日と呼ばれる方たちです。
彼らは想像すると、複雑なアイデンティティーを持っていると思うのですよね。
朝鮮民族であり、祖国に暮らす人々と文化を共有はしているけれども、やはり彼らと在日では置かれている環境が違うため、全く一つの価値観というわけではない。
また半島では同じ民族が二つの国に分かれている。
日本で暮らしているからといって日本人として扱われるわけでもなく、差別は受けている。
同じような環境に置かれ、共感を感じられる人々が非常に少ないマイノリティです。
だから、そういう境遇だからこそ、家族というものが非常に濃い存在になるのかもしれないです。
「焼肉ドラゴン」を切り盛りする龍吉は戦前に日本に連れてこられたが、故郷は戦争により壊滅して、家族みんなを失ってしまいました。
彼は妻と子供たちと日本で生きていくことを決めました。
子供たちは韓国語を話すことはできず、日本語しか話せません。
日本自体も戦後の復興期で、今までの価値観が大きく変わっていく時代でした。
そのような時代、龍吉はただ黙々と働き続けてきました。
小さくとも自分たち家族のいる場所を守り続けるために。
彼にとって家族だけが自分のアイデンティティーの拠り所だったのでしょう。
韓国も北朝鮮も日本も、彼の拠り所ではない。
彼にとっては家族だけ。
彼は日頃無口ですが、彼が話すときは全て家族に関する重要な場面なのですよね。
家族のことをどれだけ大切に思い、それこそが彼の全てであるかのように。
だから長男の自殺はショックであったに違いありません。
在日にとって暮らしやすいわけではない日本の環境。
差別に対抗するには、それに対抗できる実力(学力・経歴)を身につけなくてはいけない。
だからこそ長男にも頑張るように言っていたのだと思うのですが、それが息子を追い込んでしまった。
家族のために良かれと思ったのに・・・。
彼にとってはアイデンティティーが揺らぐような出来事であったと思うのですよね。
そういうことがあったからこそ、3人の娘がそれぞれの道を選んでいくとき、彼は何よりも彼女たちの気持ちを優先させた。
彼にとっては家族の幸せこそが全てであり、幸せは自分で進む道を選ぶことであると気づいたのかもしれません。
彼も若い頃に日本に強制的に連れてこられ、そして家族もそして腕も失ってしまった。
自分では道を選べなかったわけです。
息子も結果的には自分で道を選べず、追い込まれてしまった。
最後にオモニが言っていたように、家族の行く道は違うけれど、家族は繋がっているわけです。
進む道は違うけれどそれをそれぞれが選んだのであれば、辛いことがあっても幸せであるはず。
結果、彼らはそういう思いを共通に持ち、それが彼ら家族のアイデンティティーになっていくのかもしれません。
父親の龍吉役をやったキム・サンホさんの演技が素晴らしく、彼中心の視点で記事を書きました。
オモニ役のイ・ジョンウンさんもそうですが、韓国の俳優さんは演技うまいですよね。
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