「忍びの国」 一にも二にも大野くん
この作品、一にも二にも大野くんに尽きると言ってもいいでしょう。
主人公無門は怠け者で、妻の尻にいつもひかれている男ですが、忍びの国と言われる伊賀の中でも群を抜いた実力の持ち主です。
戦いにおいてもその飄々とした態度は変わることがなく、それゆえ真剣な相手と対照的で、そこから無門の実力が破格であることが伝わります。
彼は相手に負けることがイメージできないので、余裕がある状態が普通なのでしょう。
この無門というキャラクター、映画を見てしますと大野くん以外の人は想像できないくらいにはまっています。
飄々としてとぼけた感じ、妻に全く頭が上がらないダメな旦那、しかしいざ真剣になった時の切れ味。
またダンスを踊るかのように軽やかに相手の技を見切り、受け流すのは、さすが嵐の中でもトップクラスのダンスの妙手ならではでした。
本作の魅力は無門というキャラクターに負うところが多く、だからこそそれを具現化している大野くんに寄るところが多いと思います。
当時の伊賀には大名はおらず、権力の空白地帯のようなものでした。
土地は豊かではなかったので、あえてそこを取りに行く大名もいなかったのかもしれません。
そこに暮らす者たちは、畑を耕すことだけでは暮らしていけず、独自に発達させてきた忍びの術を他国に売る(雇われてスパイをする)ことにより生活を立てていました。
そのためか、他国のようなルールは通じず、まさに獣が生きるが如く自分の欲に忠実に生きていく人々の集まりとなって行きました。
それゆえ他国からは「虎狼の徒」と呼ばれ蔑まれました。
無門自身も忍びの価値観で育ってきたため、そのことに疑問を持つことはありませんでした。
しかし、最愛の妻を失った時、初めて忍びの価値観に疑問を持ちます。
この物語は弱小国伊賀が信長勢に一矢報いることを描くのではなく(映画を見始めた時はそう見えますが)、人を人とは思わない人々の国が滅びていく様を描いています。
己の欲のみを追求することを望み、他者を思いやる気持ちを持たない人々。
普通でいえば悪役になる人々を内から描き、それを最後にひっくり返して見せるところがうまいところです(これは原作によるものですけれど)。
演出的にはちょっとゆるい感じがしたのと、大野くんが良かっただけにもう少しアクションの合成などを頑張って欲しかったのが不満です。
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