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2016年10月17日 (月)

「ハドソン川の奇跡」 ヒューマン・ファクター

本作は2009年に起こった「ハドソン川の奇跡」と呼ばれる航空事故を題材としています。
これはニューヨークの空港を離陸したばかりの航空機の2基のエンジンの両方が推力停止となったため航行不能となり、ハドソン川不時着水をした事故です。
冬場の川への着水であったにも関わらず、乗員乗客255名がすべて生存したということで「奇跡」と呼ばれるケースとなりました。
サレンバーガー機長は奇跡を起こした英雄としてマスコミなどには取り上げられますが、事故調査委員会は彼の判断に問題があるのではないかとし、公聴会を開きます。
諸条件を入力したコンピューターやベテランパイロットによるシミュレーションでは、ハドソン川に着水しなくても、トラブルは回避できたと、彼らは主張します。
人々の命を救った機長が実は・・・というのは、以前デンゼル・ワシントンが主演をした「フライト」がありますが、本作のサレンバーガー機長は安全を第一に考える立派な人物でした。
この事故は、ちょっとでもタイミングが悪ければ、あわや大惨事というケースでした。
ましてや9.11で航空機が引き起こした大惨事の数年後のニューヨークで起こったということもあるでしょう。
事故調査委員会としては、わかりやすい犯人捜しをして決着をつけたかったという心理が働いたのかもしれません。
原因がよくわからない場合だったり、日常的に防ぐことができないことが原因だったりすると、「また同じような事件が起こるかもしれない」といった不安ばかりが世間に広がってしまう。
誰かのミスであれば、少なくとも原因がわかることにより、このケースが個人に由来する特殊なものであることと人々は思ってもらえるのではないかと。
とはいえ本作はドロドロとした陰謀論というわけではありません。
本作の中では「ヒューマン・ファクター」や「ヒューマン・エラー」という言葉が頻出します。
航空事故では「ヒューマン・エラー」が原因の事故が多数あります。
いわゆる誤操作、誤認識など人間由来のミスによる事故のことですね。
マニュアルを充実させたり(航空機を飛ばすときの手順書は何十ものステップがある)、自動化を進めたり(最近の航空機の自動航行システムはすごいらしい)ということは、なるべく人間由来のミスをなくそうという試みでしょう。
人間は必ずミスをする、これは正しい認識です。
だからといって人間の関与を全くなくすということが正しいことかどうかは議論があるところでしょう。
「ヒューマン・ファクター」という言葉は、本作ではサレンバーガー機長がよく使っていたように思いますが、「ヒューマン・エラー」のようなネガティブな意味ではなく、ポジティブな意味で使っていたように思います。
マニュアル化、自動化という対策は「人は必ずミスをする」という前提で、想定されるケースでどのように対処するべきかということを取り決めたものと言えます。
これは一見正しいのですが、「想定外」のことが起こったときには実は役に立たなくなります。
マニュアル通りにしか行動できない人のことを「マニュアルくん」と揶揄したりすることがありますが、そういう人は「想定外」の状況にヨワイ。
自動化された機械も「想定外」のことが起こった場合はエラーを起こしてしまう。
この作品で描かれている状況は、離陸直後にバードアタックを受け、全エンジン停止という状況は誰も経験をしたことがない「想定外」の状況でした。
すでにデータがそろっている状態でのコンピューターシミュレーション、何度も練習をして挑むパイロットでやっとクリアできる状況であったわけです。
「想定外」のことが起こったとき、人間はより高次なレベルでの判断(何を優先させるべきか、何が最も可能性があるか)を行うことができます。
これは誰にでもできることではなく、高い経験値、冷静な判断力、実施可能なスキルが求められます。
「想定外」の状況のとき、マニュアルも自動化技術は対応できない可能性があり、それに対応できるのが「ヒューマン・ファクター」なのかもしれません。
今後AIのディープラーニングが進んでいくと、ベテランが持っている「カン」的なものも持つようになるかもしれませんが、まだまだそれに人の命を賭けられるかというと怖いものがあります。
またこの映画で描かれたのは航空機事故で、ふつうに暮らす我々からするとかなりレアなケースのようにも思えますが、遠くない未来で自動車の自動化が進んだ場合は、このようなケースも身近になるかもしれません。
「想定外」のことが起こったとき、「ヒューマン・ファクター」で対応できるのかどうか、今後話題になることも多くなるかもしれませんね。

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