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2016年10月 3日 (月)

「スーサイド・スクワッド」 DCはメジャーになれるのか?

DCの悪人(ヴィラン)版「アベンジャーズ」と言ったところの作品。
コミックでDCと言えばマーベルと双璧の存在であるが、こと映画においてはその存在はマーベルに大きく水をあけられているように思える。
今年に入り「バットマンVSスーパーマン」の公開、続いて「ワンダーウーマン」も公開予定ということで、マーベル追撃の姿勢を見せているが、なかなか追いつくまではいけていないというのが私の印象だ。
この違いはどこにあるのだろう?
おそらくマーベルはスーパーヒーローものというジャンル系映画に興味を持たない人も取り込めているのに対して、DCはマニアックなオタク路線で展開しているということなのではないか。
言葉を替えれば、マーベルはスーパーヒーローもの等の素地がない人が見ても楽しめて親切なつくりになっているのに対し、DCはある程度ジャンルに対するバックボーンが求められるように思う。
マーベル・シネマティック・ユニバースは「アイアンマン」からスタートしたが、そもそもアイアンマンというヒーローはそれほど著名ではなかった。
しかしマーベルは主演にロバート・ダウニーJr.を起用したり、監督にはジョン・ファブローをあてたりとこのジャンルイメージとは違う布陣で挑んだ。
この布陣はジャンルムービーが持つマニアックさを抑え、メジャーな匂いがする作品にすることに貢献できたと思う。
このことにより、スーパーヒーローものはそのジャンルが好きな人々だけで楽しむというものではなく、それ以外の多くの観客に広く門戸を開くことに成功したと思う(一昔前はデートムービーにアメコミ映画を選ぶというセンスはなかったと思う)。
その後、他のマーベル・シネマティック・ユニバース作品でもマーベルはこのメジャー化戦略を推し進めていく。
また「アイアンマン」からスタートし、「インクレディブル・ハルク」「マイティ・ソー」「キャプテン・アメリカ」というようにユニバースを拡大し、「アベンジャーズ」としてフェイズ1をまとめ上げた。
アイアンマンにしてもソーにしても、バットマンやスーパーマンに比べれば当初はマイナーな存在であったのだが、マーベル・シネマティック・ユニバースを積み上げていくうちに、メジャーになっていた。
さらには全く知らないヒーローであっても、マーベルであるならばおもしろいと観客に思ってもらえるようになっていったと思う(「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」や「アントマン」等)。
いわば「マーベル」を信頼のブランドにすることができたのだ。
極めて「マーベル」は戦略的にマーケティングをしているようにみえる。
「スーサイド・スクワッド」の記事にもかかわらず、延々とマーベルの話を書いてしまったが、対してDCはどうか。
冒頭で書いたようにDCはマニアックすぎるアプローチをしているように見える。
本作をヴィラン版アベンジャーズと言ったが、これはかなり変化球な切り込み方だ。
確かにスーパーヒーローものでは悪役が人気となるケースは多くある。
本作にも登場するジョーカーなどはその筆頭だと思うが、そもそも悪役はヒーローがあってこその存在である(ヒーローは悪役あっての存在ともいえるが)。
なのでヴィランが主役の物語はあくまでサイドストーリーであるはずなのだが、本作の場合はサイドストーリーが先にできてしまったという感じがする。
アメコミマニアからすれば、デッドショットもハーレイ・クインもメジャーな存在なのかもしれないが、それほどこのジャンルに造詣が深くない観客からすれば「誰それ?」という感じだろう。
おそらく制作側もそれはわかっているからこそ本作で登場人物の背景を織り込んできたのだろうが、やはりキャラクターを魅力的に描くほどには踏み込めていない。
ジョーカーとハーレイ・クインの倒錯的な純愛は一本作れそうな可能性があると感じたのだが、本作の中ではダイジェストのような扱いであったので、少々もったいないと感じた。
DCもマーベルにならって、「アベンジャーズ」のようにヒーローたちの物語がクロスオーバーしていくジャスティス・リーグを展開していくことをもくろんでいくようだが、マニアックなアプローチのままだと大きなムーブメントにはなりにくいような気がする。
このマニアックなアプローチは本作の製作総指揮で入っていたザック・スナイダー(「ウオッチマン」「マン・オブ・スティール」)のセンスなのだろうと感じる。
「ダークナイト」のクリストファー・ノーランは作家性の強い監督であったが、マニアックではなかった。
作品の情報量は多かったがあくまでノーランがストーリーを描くためであって、マニアックなキャラクターを描くためではなかったと思う。
広い層をとっていくのか、マニアックな層をとっていくのかは、規模の大きいプロジェクトとしては大事なところなので、マーベルにならうだけではなく、DCの戦略が求められる気がする。
本作単体の評価として気になったところでいうと、ストーリーの組み立てが少々わかりにくい箇所がいくつかあった。
後半はスーサイド・スクワッドが派遣される事件について物語は展開するが、その直前にフラッグ大佐とジェーンが地下鉄に行くシーンから突然ジャンプしたように感じられた。
後で「実はそのとき・・・」的な描かれ方で補足されるのだが、少々わかりにくいように思う。

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コメント

メビウスさん、こんばんは!

そうですね、こういう大集合の作品はそれぞれのキャラクターを皆が理解していた方がより盛り上がれるのではないかなと思います。
その点はマーベルは戦略的にこの数年じっくり組み上げてきた感じがありますね。
DCはちょっと焦りすぎな印象を持ちます。

投稿: はらやん | 2016年11月 7日 (月) 21時56分

はらやんさんこんばんわ♪TB有難うございました♪

最初は悪役ばかりが出て来る作品と聞いて結構興味もありはしたのですが、でも確かに悪役というのはヒーローという存在あってこそのような気もしますね。DCのヴィランはそれこそジョーカーくらいしか知らないので、初見のキャラクターをごちゃっと出されて尚且つ説明も大雑把と来れば、本当にマニア向けにしか作られていないような感じに見えてしまいます。
こういう大集合的な作品はアベンジャーズのように時間をかけて作るべきじゃないかとも思うんですが・・・焦りすぎたんでしょうかねぇ?

投稿: メビウス | 2016年10月18日 (火) 00時45分

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