「64-ロクヨン-後編」 子への思い、届かぬいたたまれなさ
<ネタバレ部分があるので、注意してください>
前編は昭和64年に発生した誘拐事件「ロクヨン」を模倣した事件が発生したところで終わっていました。
事件が始まってすらいないところではあったので、後編も気になって公開後すぐに観に行ってきました。
模倣事件は誰が行っているのか?
誘拐された子供は助けられるのか?
そもそも「ロクヨン」の犯人は見つかるのか?
といった謎が解けていくのも見どころではあるのですが、それよりも親が子供を思う気持ちの深さ、そしてそれが届かぬ時のいたたまれなさに感じ入りました。
「ロクヨン」で娘を殺害されてしまった雨宮は十数年にもわたり、一人で犯人を追っていました。
毎日のように一軒一軒電話をかけ、自分だけが知っている犯人の声を探していたのです。
それは気の遠くなるような作業であったでしょう。
しかし、それは彼にとって唯一、愛娘と繋がっていられる行為であったのでしょう。
雨宮は年月が経ち、娘のことを忘れてしまっていきそうになることが恐ろしいと言ってしました。
彼がいかに娘を想っていても、それを直接伝えることはもうできません。
声をかけてあげたくとも届かない。
そのいたたまれなさといったら。
彼ができる唯一のことは一つ一つ電話番号を潰していくことだけ。
そうすることによって、彼は娘と繋がっていたいと思ったのかもしれません。
また、主人公三上にしても、そのいたたまれなさを抱えています。
彼に反抗的な娘に手を焼き、その気持ちを理解できないという悩みがありました。
しかし、彼は娘と正面を切って向かい会おうとはできず、その結果娘は失踪をしてしまいます。
彼も娘を愛していないわけではなく、それだからこそ娘がいなくなった時、喪失感を感じ、自分が間違ったことをしてしまったのでないかという思いを持ち続けています。
だからこそ三上は、雨宮の本当の思いを理解した時、彼が持ついたたまれなさに共感したのではないかと思います。
そして雨宮も三上が心の中に抱えている思いを察したのではないでしょうか。
また本作では、人は自分の強い思いに支配された時、他人の気持ちを思いはかることができなくなってしまうということも浮かび上がってきます。
「ロクヨン」の犯人は後編で割とあっさりとわかります。
そもそも模倣事件自体が、彼が犯人であることを明らかにさせるために仕込まれたことであるわけです。
かつて自分が行ったと同じように娘を誘拐された時に、犯人は自責の念にかられるのか。
彼は自分の娘を助けるために大金も用意します。
そのために自分は何でもやるとも言います。
彼は模倣犯に対し、娘の命を懇願した時に、かつての自分の姿は思い浮かばなかったのでしょうか。
自分が娘を思う気持ちが何ものにも勝ってしまう。
同じことは、三上にも言えます。
三上が犯人を追い詰めた時、彼は雨宮に共感し、その思いを果たしてあげるためと考えていたのでしょう。
娘のためという雨宮の思いを遂げること、それは三上自身にとっても思いを果たすことと同じになっていたのかもしれません。
だからこそ、三上は禁じ手とも言える手法で犯人を追い詰める。
そして、それにより犯人の娘の気持ちをも傷つけてしまいました。
それは犯人が他人の気持ちをわからずに犯行を行ったことと、同じことであるようにも思えます。
いかに親の子供に対する思いが強く、そのためであるならば他の人間を傷つけてしまうこともしてしまうという業の深さを描いているようにも思いました。
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原作 横山秀夫『64(ロクヨン)』(文藝春秋刊)
脚本 瀬々敬久/久松真一
監督 瀬々敬久
音楽 村松崇継
主題歌 小田和正『風は止んだ』
出演 佐藤浩市/綾野剛/夏川結衣/緒形直人/榮倉奈々/窪田正孝/坂口健太郎/筒井道隆/小澤征悦/金井勇太/柄本佑/忍成修吾/...... [続きを読む]
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もちろん、面白くないわけじゃなかった。
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前編が思ったよりも良かったので、期待していきましたが、う~ん、敢えて変えた結末はどうなんでしょうね?わたし的には、ちょっとイマイチ。
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* * * * * * * * * *
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合本 64(ロクヨン)【文春e-Books】横山秀夫文藝春秋 by G-Tools
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「怒涛の前編、慟哭の後編」なのである。局の柱巻きに書いてあったのだから、間違いない。そうなんだろうな、と思いつつ、結局公開終了直前に鑑賞。いやもう本当に楽しみにしていたのだけれど、息子と予定を合わせるのが難しいシーズンなので。前編からの期待を裏切らない素晴らしい力作。だが、ラストは原作とは異なるのだという。それは…!大変だ!ということで、自分史上初めて映画を観た後に原作を読む事を決意。で、文庫本を買ってきたのはいいんだけど、読み始めて10ページもいかない内に涙、涙。これは読了するのに相当な気力がいる... [続きを読む]
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正直言っていいですか?(笑) [続きを読む]
受信: 2016年7月21日 (木) 06時15分
» 後編は事件は解決へと向うが・・・ [笑う社会人の生活]
23日のことですが、映画「64-ロクヨン-後編」を鑑賞しました。
事件から14年が過ぎた平成14年、新たな誘拐事件が発生 犯人は「サトウ」と名乗り
身代金2000万円を用意してスーツケースに入れ、父親に車で運ばせるなど、事件は「ロクヨン」をなぞっていて・・・
もちろ...... [続きを読む]
受信: 2016年8月19日 (金) 13時29分
» 64-ロクヨン-前編/64-ロクヨン-後編 [いやいやえん]
【概略】
かつては刑事部の刑事、現在は警務部・広報官の三上義信は、常にマスコミからの外圧にさらされていた。そんな彼が、昭和64年に発生した未解決の少女誘拐殺人事件、通称「ロクヨン」に挑む。
サスペンス
【概略】
三上は警察という組織の中で生きる個人としての葛藤を背負い込みながら、マスコミからの突き上げにあっていた。そんな中で家族の問題も抱えながら、「ロクヨン」事件の真相に迫り…。
サスペンス
犯人は、まだ昭和にいる。慟哭の結末を見逃すな。
「昭和天皇の崩御... [続きを読む]
受信: 2016年12月18日 (日) 21時11分
» 64-ロクヨン-後編 [タケヤと愉快な仲間達]
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【解説】
「クライマーズ・ハイ」などで知られる横山秀夫の原作を基に、『... [続きを読む]
受信: 2017年1月13日 (金) 05時33分
コメント
ここなつさん、こんばんは!
人はどこか自己本位なところがあるのですよね。
自分や家族なことを大切に思うのと同じようには所詮他人を思えないという。
そこを分かりながら、自分をいかに戒められるかということなのでしょうか。
投稿: はらやん | 2016年7月23日 (土) 22時31分
こんにちは。
特に、>いかに親の子供に対する思いが強く、そのためであるならば他の人間を傷つけてしまうこともしてしまうという業の深さを描いているようにも思いました。
の部分に考えさせられました。
脆い存在の人間は、組織や家族の絆を過大評価しつつ生きていると思うのですが、それすら親子の情愛の中ではちっぽけな大きさなのかもしれませんね。
投稿: ここなつ | 2016年7月20日 (水) 12時49分