「64-ロクヨン-前編」 報道の役割とは
例によって原作は未読ですが、横山秀夫さん原作の作品らしく骨太のドラマとなっていました。
本作は出演者も上手な俳優さんがたくさん出演されているので、その点でも見ごたえがありますね。
最近の邦画は前後編を間をおかずに公開するパターンが多いですが、本作もそのような構成となっています。
前編は過去の誘拐・殺人事件が新たな展開を向かえるところで終わります。
おそらく後編は犯人、動機といった事件そのものの謎を追うミステリー色の強い展開となると思いますが、前半は事件というよりは警察・新聞社の組織、そしてそこに生きる人々を広報官三上を通じて描いています。
「クライマーズハイ」でも見られましたが、そのあたりは元上毛新聞の新聞記者であった原作者の真骨頂ですね。
警察や新聞社に限らず、組織に属する人間は、組織の意思と個人の意思との間で苦しむことがあります。
得てして組織はそれ自体が意思を持つかのように振る舞い、その組織の構成員を縛ります。
組織の面子を気にし、それに反することによりはじき出されることを恐れ、保身のために動く人もいます。
これは変じゃないか、間違っているかもしれないという疑問を持つことがなく動いてしまう場合もあり、それは組織文化として非常に危険です。
本作で描かれている隠蔽がそうですね(東芝事件とか、最近の三菱自動車の件などもこれでしょう)。
そしてまた組織の意思のように見えて、トップの方の個人的な思惑が絡んでいることもあるので厄介です(派閥争い的な)。
そういう状況の中で、個人としての矜持を通そうとすると、組織からはじき出されてしまうことがあります。
本作の主人公の三上のように。
どちらの方がいい生き方なのかというのは一概には言えません。
しかし、組織の中で個人の矜持を通そうとすることは難しいがゆえに、このような主人公に強く共感し、声援を送りたくなってしまうのかもしれません。
また別の視点で、権力に対する報道という点でも問題提起を行っています。
かつての日本では報道が公権力の影響を受け戦争を推進していく一つの力となった反省から、報道は公権力が暴走することを防ぐという強い使命を持っています。
それ自体は報道の機能として正しいスタンスであると思います。
しかし、それが公権力への抑止力ということから、ただ対立することが目的化していくという変質が起こっているのではないかと本作は指摘しているような気がします。
これは報道に限らず、野党などもそういう感じがしますが。
何のための戦いなのか。
それは国民のためであるべきであるのに、いつからか戦うことが目的化してしまっている。
これは瑛太さん演じる秋川に象徴されています。
仮想敵(警察)がいなくては自分の存在意義が見出せない。
三上は、いつまで戦い続けるのか、と問います。
戦いが目的でははずだろうと。
報道は様々な情報を集め、それを国民に提示し、皆でより正しい答えを導き出せるようにするのが役割ではないかと考えます。
そういう基本的な役割をもう一度認識するべきであると言っているような気がします。
前編では組織と個人、そして報道の役割といった社会的な課題をエンターテイメントの中でしっかりと提起していました。
後編ではどのような展開が待っているのでしょうか。
期待して待ちたいと思います。
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人物相関図(クリックで拡大)
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...... [続きを読む]
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注・内容、犯人(後編部分含む)に触れています。『64 -ロクヨン- 前編』監督 : 瀬々敬久出演 : 佐藤浩市綾野剛、榮倉奈々、瑛太、夏川結衣窪田正孝、坂口健太郎、筒井道隆鶴田真由、赤井英和、菅田俊烏... [続きを読む]
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» 64-ロクヨン-前編 [映画好きパパの鑑賞日記]
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受信: 2016年6月 5日 (日) 20時58分
» 64―ロクヨン―前編 [映画三昧、活字中毒]
■ 試写会にて鑑賞64―ロクヨン―前編
2016年/日本/121分
監督: 瀬々敬久
出演: 佐藤浩市/綾野剛/榮倉奈々/夏川結衣/緒形直人
公式サイト
公開: 2016年05月07日
昭和64年01月05日。雨宮漬物店の店主である雨宮芳男の娘、翔子が誘拐され、身代金を要求する電話がかかってくる。警察と雨宮は犯人に翻弄されて身代金を奪われた挙句、翔子の遺体発見と言う最悪の結末を迎...... [続きを読む]
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» 16-106「64 ロクヨン 前編」(日本) [CINECHANが観た映画について]
昭和の7日間に取り残された人を救ってやってくれ
わずか7日間でその幕を閉じた昭和64年。その間に管内で発生した少女誘拐殺人事件。いまも未解決のその事件を県警内部では“ロクヨン”と呼んでいた。
刑事部で長く活躍しロクヨンの捜査にも関わったベテラン刑事の三上義信。私生活では高校生の娘が家出失踪中という大きな問題に直面していた彼だったが、この春から警務部の広報室に異動となり、戸惑いつつも広報室の改革に意欲を見せていた。
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受信: 2016年7月17日 (日) 23時58分
» 「64 -ロクヨン- 前編」 [のんびり。]
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» 64-ロクヨン-前編 [タケヤと愉快な仲間達]
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受信: 2017年1月 9日 (月) 06時07分
コメント
りおさん、こんばんは!
まだレビューを書けていないですが、後編を見てきました。
子供というものが親にとっていかに大切なものかというのを感じさせられました。
投稿: はらやん | 2016年6月16日 (木) 22時15分
こちらにも。
後編をまだ観ていないので、何とも言えないところはありますが、いい感じに映像化していたと思いました。
後編楽しみですね!
投稿: りお | 2016年6月11日 (土) 21時50分