「エヴェレスト 神々の山嶺」 魅入られた男たち
「なぜ山に登るのか?」
「そこに山があるからだ」
これは本作でもキーマンとなるジョン・マロリーの言葉です。
そしてこの作品に伝説のクライマーとして登場する羽生は「ここに自分がいるからだ」と答えます。
まさに山に登ることこそが、彼にとってのレゾンデートル(存在意義)であるということでしょうか。
エヴェレストのような山へのアタックはその道程も一般人が想像できないほどに苦しく(自分は高尾山の登山くらいでヒーヒー言っている)、そして命を失う危険性も高いのに彼らはなぜ山に挑むのでしょうか。
山を攻略するためには、自分の頭脳、体力、それこそ己の全てを出し切らなければならないのでしょう。
己の命すらも。
しかし全身全霊、すなわち命をかけることは、普通の生き方では感じられない充実感があるのかもしれません。
一度それを経験すると、そこでしか生を感じられないということも起こり得るのかもしれませんね。
羽生の姿を見ていると、まさに地上で普通に暮らしている時の姿は周りのものへの関心が極端に少ない感じがします。
彼にとっては普通に地上で生きていることの方が非現実的なのかもしれません。
山にあってこそ自分の生を感じられる。
まさに山に魅入られた男なのかもしれません。
そしてもう一人、本作には深町というカメラマンも登場します。
彼は若く、功名心も高い男でした。
彼にとっての山は自分がカメラマンとして名を上げるための舞台であったのでしょう。
しかし、深町は取材の中で羽生に出会います。
深町にとって羽生は最初は不可解で理解しがたい男であったと思います。
けれども彼の生き様を知っていくにつれ、深町自身も己の生を感じられるようになったのかもしれません。
「なぜ人は山に登るのか?」
その問いは「なぜ人は生きるのか?」という問いにもつながるかもしれません。
生きることにも、様々な苦難があり、逃げ出したくなるようなことも多々あります。
それでも多くの人は生き続ける。
深町は自分が命を落としそうな経験を経て、おそらく「なぜ人は生きるのか」という問いを自分の中に抱くようになったのでしょう。
その答えを自分なりに出さなければ、一歩も先に進めない。
生きていくために、問いの答えを出すために、彼は羽生を追います。
彼は羽生に魅入られました。
それは生きること、登ることに魅入られたということなのかもしれません。
命をかけて山を登ること、それは命を捨てるということではなく、自らの命を極限の状況で実感するということなのでしょうね。
思えば自分の生を本当に実感できるということは、普通の生活ではなかなかないものです。
その実感ができた時、人は魅入られてしまうのものなのでしょうか。
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