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2016年2月27日 (土)

「スティーブ・ジョブズ」<2015> ジョブズのパーソナリティーに迫る

改めてまして、ご無沙汰しております。
先週、海外出張より帰国しまして、こちらのブログも再開いたします。
帰国後、最初に観た作品ですが、こちらの「スティーブ・ジョブズ」になります。
ジョブズの映画というとアシュトン・キャッシャー主演で2013年に公開された同タイトルの作品がありました。
あちらは若かりし頃のスティーブ・ジョブズにスポットを当てて描いていたように思います。
アシュトン・キャッシャーの風貌が、若い頃のジョブズに似ていたのが印象的でした。
それに対し、本作はジョブズの人生を描くということよりも、ジョブズという人物そのものを描くということを主眼としているように感じました。
ですので、描かれる場面としては初代マッキントッシュの発表プレゼン前の様子、Appleを追い出された後にネクストを発表するときの様子、そしてApple復活後にiMacの発表の時が描かれます。
ジョブズを演じるのはマイケル・ファスベンダーです。
彼は決してスティーブ・ジョブズに似ているわけではありませんが、このような伝記ものでよくあるような風貌を寄せていくというアプローチはせず、ジョブズのパーソナリティーを表現することに注力しているように感じました。
またジョブズを取り巻く登場人物についてもかなり絞り込んでおり、ただ事実のみを描いていくというよりも、彼らを通じてジョブズという人物を描こうとする意図を感じます。
この辺りのミニマム化して描こうとするスタイルは、監督のダニー・ボイルらしいかなと思います。

この映画を通して感じるジョブズ像ですが、まずはコントロール・フリークであるということでしょう。
そしてまた彼はビジョナリストでもあります。
誰も想像できていないようなことが、彼の中にビジョンとして存在している。
おそらくそれは彼にとっては自明なことで、確信的なことなのですね。
突飛なことでもそれが必ず世の中を変えるという強い信念が彼の中にある。
彼からするとそんな自明なことがわからない周囲の人々が、とても愚かしく、またもどかしく見えていたのでしょう。
彼独特の上から目線の物言いはそう言ったところからきているのだと思います。
人々がそのビジョンを理解できていないから、彼はそれを実現するためにコントロールしなくてはいけないと思いに駆られていたのでしょうね。
彼がコントロール・フリークであるのは、ジョン・スカリーが指摘していたように養子にされたということが影響をあたえられているかもしれません。
育ての親に育てられながらも(ジョブズの養父母はとてもいい人であったようですが)、いつ気に入らないから戻されるかわからないという不安感を持っていたのかもしれません。
だからその不安を払拭するために、自分と自分の環境を自分にとって良い状態にコントロールしたいという気持ちが強まったのかもしれないですね。
だからこそ、ジョブズは自分がコントロールできないものについて非常に強い拒否感を持ちます。
例えば、しばしばこの映画で言及される、コンピューターをオープンシステムにするか、クローズドシステムにするかという議論にもそれは現れます。
ジョブズはクローズドシステム派なのですが、これは全てを自分のコントロール下に置きたいという意思の表れでしょう。
オープンシステムは彼のビジョンから逸脱する可能性がある。
それをジョブズは嫌うのです。
同様に、娘のリサに対しても同じように感じることがあったのかもしれません。
世の親たちは当然わかっているように、子供というのは親の思い通りにはなりません。
親がこうあってほしいと思っても、子供は子供のパーソナリティーを持っており、彼らの生きたいように生きます。
ジョブズもそれはわかっていて、だからこそコントロールできない娘に対し、居心地の悪さを感じていたのではないでしょうか。
しかしまた、子供は新しい可能性も持っている。
それはジョブズが目指していた世界を変えることにも通じます。
その点において、ジョブズはリサへ未来を投影することができたのだと思います(リサが初めてMacで絵を描いたとき)。
リサに対しては拒否感と親近感という相反する感情をジョブズは持っていて、だから彼女に対しては複雑な対応を彼はとっていたのだと思います。
またジョン・スカリーに対しては、父親を投影していたようにも思えますね。
頼りになる父というイメージ、そしてそれに裏切られ、自ら自分の父を倒そうとする。
まさにギリシャ神話から繰り返し語られる父親殺しのイメージが重なります。

冒頭に書いたようにジョブズに関する2作品は、同じ人物描かれますが、全くアプローチが違います。
狙いによって表現が変わってくるわかりやすい例ですね。

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