「グラスホッパー」 緑色のバッタ
伊坂幸太郎さんの小説「グラスホッパー」の映画化作品です。
彼の作品は登場人物のバックグラウンドに悲しい出来事、自分ではどうしようもない不条理事件などがあって、そこから生み出される暗さが作品を通じて低く流れているイメージがあります。
ストーリーを追っていくと、次第にその悲しい出来事がわかってきて、事件の因果や登場人物たちの行動が明らかになっていく。
映画になった作品「アヒルと鴨のコインロッカー」、「重力ピエロ」などもそうですよね。
悲しい出来事は割と陰々鬱々としていることだったりするので、本でも映画でも、読んでいたり観ていても、辛い気分になったりもするのですよね。
結末も悲しい終わり方だったりもするのですけれど、ほんの少し希望のようなものが残ります。
それが伊坂作品に共通するところだったりするかもしれません。
本作「グラスホッパー」もそのような伊坂作品の系譜に連なっているように感じました。
作品全体に通奏低音のように響く陰々とした感じは、他の伊坂作品よりも強い感じはしました。
それは最初に主人公鈴木の恋人が遭遇してしまった陰惨な事件のせいかもしれません。
作品を観ていきながら鈴木が巻き込まれるだけで、事件の展開にそれほど積極的に関与しないキャラクターであることが不思議でした。
最後は彼が動くことにより、大どんでん返し的な展開になるかと思っていたのですよね。
そうではありませんでした。
物語をドライブさせているのは、別の主人公ともいうべき、鯨と蝉でした。
バッタは密集して育つと色が黒くなり、凶暴性が増していくという話が劇中でされました。
これが作品のタイトル「グラスホッパー」の由来になっているのでしょう。
人間も正しくそうで、人の数が増え、都会で密集して暮らしていく中、バッタのように凶暴化し、自分の欲望だけを優先し、他人に対して暴力を使っていってしまうというのが、作品の言いたいことなのでしょう。
三人の主人公の中で一番バッタに近いのが蝉であると思います。
終始何かにイラつかされている、そのイラつきを抑えるために暴力を振るう。
人で埋め尽くされた空間(渋谷のスクランブル交差点が象徴)で、自分が何者であるかがわからない。
生きているということですら、わからない。
だからイラつく。
生きていることを確認するために、人を、殺す。
鯨もイラつき・闇を抱えています。
蝉ほどにそれがダイレクトに行動に表れているわけではありませんが。
彼は人の心の罪の意識を刺激して、自殺に追い込むことで殺します(催眠術か超能力かわかりませんが)。
人は誰かと関係しながら生きていれば、何処かで誰かを傷つけてしまう。
誰も傷つけない人はいないかもしれない。
人が密集すればするほどそういうことが多くなるかもしれません。
だから蝉の術は、人を死に追いやることができる。
しかし、皮肉にもそういった行為が、蝉自身に罪の意識を背負わせているのです。
この二人はまさに群衆の中で育った黒い色のバッタなのですね。
鈴木は怒りや悲しみも背負っているのですが、二人や他の登場とは異なり、暴力化していません。
彼は黒色のバッタ群の中で、一人だけ元のままの緑色のバッタであるかのよう。
黒色バッタの大群の嵐の中でもまれながらも、ただ一人だけ特異点のように緑色のままであることができている。
彼はピエロかもしれない。
ただ巻き込まれ、恋人の仇に自ら手をくだすこともないから(というより最後まで何が起こったのかわからない)。
けれど凶暴化した黒色バッタが互いに攻撃し合い全滅してしまう中で、彼のような緑色バッタが生き残っていくことができるなら、ちょっとは希望があるかもしれないと思ったりもしたのですね。
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