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2015年10月13日 (火)

「天空の蜂」 理性と知恵と熱意への信頼

東野圭吾さん原作のテクノロジー・サスペンスです。
想像以上に面白い作品でした。
サスペンスフルな見せ場も何か所もあって物語的な見ごたえがあるというのもありましたが、それだけでなくテーマについても考えさせるところもありました。
見せ場的ところで言うと、前半の湯原の子供の救出劇、後半での湯原と三島の対決シーンなどで、引っ張りまくる演出で、否応なく引き込まれました。
このあたりは堤監督らしい演出であると思います。

もう一つテーマについて詳しく考えてみます。
東野圭吾さんの作品には技術やテクノロジーへの信頼感というものがベースには流れていると感じます。
このことは彼がもともと技術畑出身の小説家であることに由来していることだろうと思います。
前代未聞の犯罪を行う三島にしても、原発施設の安全性について絶対の信頼を持っているからこそ、あのような計画を実施しようと決心できたのです(彼の行為の正当性は別にして)。
三島(おそらく原作者も)が批判しているのは「沈黙の群集」。
現代の社会にとって電気はなくてはならないものになっています。
しかしそれがどのように作られているのか、そこに誰がどのように関わっているのかへの興味は少ない。
世の中で何が起こっているのか、何が行われているのか、についてあまりに無関心であることに警鐘を鳴らしています。
けれども何か事が動くと一気に世論はある方向に動きだしてしまう。
冷静で客観的な評価はなしにして。
原発にしても何がメリットで、どのようなリスクがあるのかを、冷静に評価できている人はどのくらいいるでしょうか。
原発推進派、原発反対派、それぞれが持論について冷静な評価ができているのでしょうか。
劇中で三島と組み、犯罪を推し進める雑賀という男は、ある考え方(原発=悪)に凝り固まり、冷静に判断できていないようにも思えます。
冷静な評価というのは、科学的な視点です。
感情的な評価ではなく、客観的なデータに基づいた冷静な評価。
今の日本ではこの種の問題について感情的な評価をすることはあっても、客観的な評価をすることはあまりないように思います。
東野圭吾さんが信頼しているのは、人の理性的で冷静な評価する力であると思います。
この理性の声に従っていれば、人はそうそう間違えることはない、そういう信頼を持っていると感じました。
けれどもその理性の力がいつも発揮できているわけではありません。
ややもするとその力は抑えられ、無関心や感情でものごとが進んでいってしまっている。
そのことに危険性を感じているのでしょう。
また他に東野圭吾さんがテクノロジーや人間への信頼している点が感じられます。
それは「あきらめない心」(ベタですが)。
どんな困難な状況にあっても、人はそれを解決する力を持っている。
これはこの作品では湯原をはじめ救出に向かう自衛隊員などいくつかのキャラクターに象徴されています。
あきらめずに課題に挑み続けていれば、必ず解決につながる。
前も書いたかと思いますが、東野作品に共通して感じられるのは、人間とテクノロジーへの楽観性です。
人間への理性と知恵と熱意への信頼、それが東野作品のベースにあるエッセンスであると思います。

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