「天空の蜂」 理性と知恵と熱意への信頼
東野圭吾さん原作のテクノロジー・サスペンスです。
想像以上に面白い作品でした。
サスペンスフルな見せ場も何か所もあって物語的な見ごたえがあるというのもありましたが、それだけでなくテーマについても考えさせるところもありました。
見せ場的ところで言うと、前半の湯原の子供の救出劇、後半での湯原と三島の対決シーンなどで、引っ張りまくる演出で、否応なく引き込まれました。
このあたりは堤監督らしい演出であると思います。
もう一つテーマについて詳しく考えてみます。
東野圭吾さんの作品には技術やテクノロジーへの信頼感というものがベースには流れていると感じます。
このことは彼がもともと技術畑出身の小説家であることに由来していることだろうと思います。
前代未聞の犯罪を行う三島にしても、原発施設の安全性について絶対の信頼を持っているからこそ、あのような計画を実施しようと決心できたのです(彼の行為の正当性は別にして)。
三島(おそらく原作者も)が批判しているのは「沈黙の群集」。
現代の社会にとって電気はなくてはならないものになっています。
しかしそれがどのように作られているのか、そこに誰がどのように関わっているのかへの興味は少ない。
世の中で何が起こっているのか、何が行われているのか、についてあまりに無関心であることに警鐘を鳴らしています。
けれども何か事が動くと一気に世論はある方向に動きだしてしまう。
冷静で客観的な評価はなしにして。
原発にしても何がメリットで、どのようなリスクがあるのかを、冷静に評価できている人はどのくらいいるでしょうか。
原発推進派、原発反対派、それぞれが持論について冷静な評価ができているのでしょうか。
劇中で三島と組み、犯罪を推し進める雑賀という男は、ある考え方(原発=悪)に凝り固まり、冷静に判断できていないようにも思えます。
冷静な評価というのは、科学的な視点です。
感情的な評価ではなく、客観的なデータに基づいた冷静な評価。
今の日本ではこの種の問題について感情的な評価をすることはあっても、客観的な評価をすることはあまりないように思います。
東野圭吾さんが信頼しているのは、人の理性的で冷静な評価する力であると思います。
この理性の声に従っていれば、人はそうそう間違えることはない、そういう信頼を持っていると感じました。
けれどもその理性の力がいつも発揮できているわけではありません。
ややもするとその力は抑えられ、無関心や感情でものごとが進んでいってしまっている。
そのことに危険性を感じているのでしょう。
また他に東野圭吾さんがテクノロジーや人間への信頼している点が感じられます。
それは「あきらめない心」(ベタですが)。
どんな困難な状況にあっても、人はそれを解決する力を持っている。
これはこの作品では湯原をはじめ救出に向かう自衛隊員などいくつかのキャラクターに象徴されています。
あきらめずに課題に挑み続けていれば、必ず解決につながる。
前も書いたかと思いますが、東野作品に共通して感じられるのは、人間とテクノロジーへの楽観性です。
人間への理性と知恵と熱意への信頼、それが東野作品のベースにあるエッセンスであると思います。
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受信: 2015年10月14日 (水) 20時53分
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20年前の原作が現実問題に 公式サイト http://tenkunohachi.jp9月12日公開 原作: 天空の蜂 (東野圭吾著/講談社文庫)監督: 堤幸彦 1995年8月8日。愛知県の錦重工業小牧 [続きを読む]
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» 『天空の蜂』('16初鑑賞61・WOWOW) [みはいる・BのB]
☆☆☆☆- (10段階評価で 8)
6月19日(日) WOWOWシネマの放送を録画で鑑賞。 [続きを読む]
受信: 2016年7月 3日 (日) 20時18分
» 天空の蜂 [いやいやえん]
【概略】
最新鋭の超巨大ヘリ“ビッグB”を遠隔操作したテロが発生。犯人の要求は“日本全土の原発の破棄”。ヘリ設計士と原発設計士が、日本消失の危機を止めるべく奔走する。
サスペンス
序盤から大人がビッグBと原子炉のことでワイワイやってるんですが、何言ってるかさっぱりわからない。。。。阿呆な私。小難しいんだもん。
息子がモールス信号でずっと話しかけていたというくだりあたりからようやく話に入り込めました^;
高彦がすげーわ。クレーン操作とか、頭いい子だわ。おしっこ漏らしちゃっても仕... [続きを読む]
受信: 2016年7月 9日 (土) 07時59分
» 15-279「天空の蜂」(日本) [CINECHANが観た映画について]
ここにいる、沈黙する人間への警告
1995年8月8日。その日、完成した最新鋭超巨大ヘリ“ビッグB”の自衛隊への引き渡しの日を迎え、開発者のヘリコプター設計士・湯原は妻子とともに式典に参加していた。
すると突然、ビッグBが勝手に動き出し、息子の高彦を乗せたまま福井県にある原子力発電所“新陽”の真上でホバリングを始めた。ビッグBは、“天空の蜂”と名乗るテロリストによって遠隔操作でハイジャックされてしまったのだ。
犯人は政府に対し“日本全土の原発破棄”を要求し、従わなければ、大量の爆...... [続きを読む]
受信: 2016年7月 9日 (土) 11時24分
» 『天空の蜂』 [京の昼寝~♪]
□作品オフィシャルサイト 「天空の蜂」□監督 堤 幸彦□脚本 楠野一郎□原作 東野圭吾□キャスト 江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵、綾野 剛、柄本 明■鑑賞日 9月13日(日)■劇場 TOHOシネマズ川崎■cyazの満足度 ★★★★(5★満点、☆は0.5)<感想> 自衛隊用...... [続きを読む]
受信: 2016年7月10日 (日) 08時25分
» 劇場鑑賞「天空の蜂」 [日々“是”精進! ver.F]
この国に、守る価値はあるのか…
詳細レビューはφ(.. )
http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201509150000/
【楽天ブックスならいつでも送料無料】【夏の文庫キャンペーン2015】天空の蜂 [ 東野圭吾 ]価格:918円(税込、送料込)
... [続きを読む]
受信: 2016年7月10日 (日) 12時50分
» 天空の蜂 [あーうぃ だにぇっと]
天空の蜂@松竹試写室 [続きを読む]
受信: 2016年7月10日 (日) 13時01分
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受信: 2016年7月10日 (日) 16時58分
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半年前に読みました。
監督は堤幸彦。
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最新設備搭載の自衛隊用の
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受信: 2016年7月10日 (日) 20時58分
» 天空の蜂 [映画的・絵画的・音楽的]
『天空の蜂』を新宿ピカデリーで見ました。
(1)東野圭吾氏の原作の映画化ということで映画館に行ってきました。
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受信: 2016年7月10日 (日) 21時05分
» 映画「天空の蜂」 [FREE TIME]
映画「天空の蜂」を鑑賞しました。 [続きを読む]
受信: 2016年7月12日 (火) 06時03分
» 予言~『天空の蜂』 [真紅のthinkingdays]
1995年8月。開発されたばかりの最新鋭巨大ヘリコプター 「ビッグB」 が
何者かによって遠隔操作され、敦賀にある原発 「新陽」 上空でホバリングを
始める。機内には、ヘリの開発者・湯原(江口洋介)の一人息子・高彦が取り残
されていた。
「本当に狂っているのは誰なのか。いつかわかる時が来る」
ベストセラー作家・東野圭吾が20年前に上梓した小説の映画化。正直、私は
...... [続きを読む]
受信: 2016年7月12日 (火) 10時55分
» 天空の蜂 [★yukarinの映画鑑賞ぷらす日記★]
2015/09/12公開 日本 139分監督:堤幸彦出演:江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵、綾野剛、國村隼、柄本明、光石研、佐藤二朗
絶対、守り抜く――
Story:1995年夏、愛知県の錦重工業小牧工場から防衛庁へ納品する最新の設備を搭載したヘリコプターが、正体不明の人物によって奪われてしまう。やがて遠隔操作されたヘリは稼働中の高速増殖炉の上空でホバリングを開始し、テロリストが日本全国の原発停止を求める犯行声明を出す。さらに、ヘリ内に子供がいることがわかり... (シネマトゥディより)
原... [続きを読む]
受信: 2016年7月12日 (火) 13時01分
» 天空の蜂 [映画と本の『たんぽぽ館』]
推進派も反対派も似たような傷を持って反発しあう
* * * * * * * * * *
東野圭吾さんの原作は1995年に発表されたということで
20年も前の作品になります。
私はそれよりもう少し後かもしれませんが、確かに読みました!
が、例によって内容はほとん...... [続きを読む]
受信: 2016年7月12日 (火) 19時47分
» 天空の蜂 [映画好きパパの鑑賞日記]
進撃の巨人に続いてみたおかげか、素直に面白かった。もちろん、子供が自衛隊ヘリに乗り込めるわけないとか、脚本に突っ込めるわけですけど、それを吹き飛ばす勢いの良さが最後まで続いてくれました。 作品情報 2015年日本映画 監督:堤幸彦 出演:江口洋介、本木…... [続きを読む]
受信: 2016年7月13日 (水) 22時37分
» ショートレビュー「天空の蜂・・・・・評価額1600円」 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
蜂の一刺しを恐れるのは誰か。
1995年のある日、無人飛行可能な自衛隊の新鋭大型ヘリがジャックされ、高速増殖炉の上空でホバリング。
このまま時間が経てば、ヘリは燃料切れで原子炉建屋に落下する。
姿無き犯人の要求は、日本全国の全ての原発を即時停止させ、再始動不可能な状態に破壊する事。
20年前に東野圭吾の原作を読んだ時、映像化想定で書いたのだろうな、と思ったのを覚えている。
まる...... [続きを読む]
受信: 2016年7月15日 (金) 23時24分
» 『天空の蜂』 刺せば解決するのか [映画のブログ]
素晴らしい!
あまりの面白さに度肝を抜かれた。原発、軍需産業、自衛隊の災害派遣等、タイムリーな題材の濃縮に驚かされる。
『天空の蜂』が公開されたのは2015年9月12日。前々日に栃木・茨城・宮城を襲った大雨と鬼怒川の堤防決壊に日本中が衝撃を受けたときだった。
タイムリーなだけに、ちゃちな作りの映画なら観客に見透かされてしまう。なにしろ観客は、映画公開の前日、前々日に自衛隊のヘリ...... [続きを読む]
受信: 2016年7月16日 (土) 07時17分
» 天空の蜂 (2015) 139分 [極私的映画論+α]
原作読もうかな(笑) [続きを読む]
受信: 2016年7月17日 (日) 13時26分
» 天空の蜂 (2015) [のほほん便り]
原作は、ベストセラー作家の東野圭吾が1995年に発表した同名小説だったのですね。堤幸彦監督が映像化。豪華キャスティングです。なるほど。だから、時代設定が、1900年代で、ラストをあのようにしたのですね。と納得したのでした。(ふと「20世紀少年」に、独自の展開とラストにした件を彷彿)「原作はヨカッタのに…」と、かなり賛否両論あったみたいですが、私は、なかなかに楽しめました。本当に、映画のラストじゃないけれど、震災が起こり、ほんに今のテーマですね。発表から20年後に取り上げられたのも、時代的にタイムリー... [続きを読む]
受信: 2016年8月24日 (水) 09時29分
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