「図書館戦争 THE LAST MISSION」 表現の自由を守るために
2013年に公開された「図書館戦争」の続編になります。
原作は何作にも及ぶシリーズですのでエピソードもたくさんありますが、その中でも「図書館危機」の茨城県展警備を中心に組み立てられています。
茨城県展警備は映画としても見せ所があるエピソードですし、図書館隊の存在意義を問う話でもあるので、ここにスポットを当て、余計な要素を排除したのは、シナリオとして正解であったかなと思います。
もともと原作の「図書館戦争」シリーズは大好きな作品で、その面白さはいくつも理由があります。
一つは主人公笠原とその教官堂上のベタ甘ラブコメの要素。
そしてもう一つは「表現の自由」とそれを守る戦いといった図書館隊の存在意義そのものを扱ったシリアスなテーマです。
今回の劇場版は比較的後者の方に比重を置き、加えて実写ならではの大規模戦闘シーンなどを見どころを加味していて、うまくまとめています。
劇中でも手塚の兄、彗が言っているように「表現の自由」には幾つかの課題もあります。
確かに「表現の自由」という名目のもと、現代は信ぴょう性のない記事や、人を傷つける言葉、興味本位だけのくだらない内容の書物などが溢れています。
そういった言葉により傷つく人もいるわけで、そういったことを規制しなくてはいけないと思う気持ちもわかります。
しかし、難しいのは何を持って規制とするかというガイドラインです。
これは慎重に決めていかなくてはいいけないし、それを作り、また見直し、運用していくために社会のいくつも知識・良識が動員されるべきです。
このシリーズに登場するメディア良化隊という組織がスタートした課題意識はそれほど間違っていない。
けれどその判断を、一つの組織が決めていくということに問題があります。
その判断にはどこかで恣意的な要素が入ってくるかもしれないし、また組織が組織として存続していくために本来の目的から逸脱してきてしまうということも多々あることです。
そしてまたその判断に迎合していく「自主規制」という行動も問題があります。
公的機関(最近では世論・クレームなども)に言われなくするために、表現を当たり障りのないものにしていってしまう。
個人的には様々なことで表現の規制を加えようとする行政や市民団体の動きにはあまり賛成できません。
ガイドライン的なものがいることはわかりますが、それが政治的だったりある特定の考え方による恣意的なものになってしまうことを恐れます。
多様性という言葉をよく聞くようになりましたが、その点からいっても様々なものがあることは良いことだと思います。
子供達に教えていかなければいけないのは、そう言った様々な考え方、情報をいかに取捨選択できるようにしていくかということなのだと思うのです。
もちろん人を傷つける内容は問題外ですが、神経質に対応しすぎることにより、結果的に物申せない環境を自ら作ってしまうという危険性があります。
この物語で図書隊を覆う環境は優しいものではありません。
メディア良化隊の創設時の課題はある種の納得性があり、また彗が言う指摘点もある側面では正しい。
また世間が「表現の自由」を当たり前のものとして受け止めていて、それがどのように守られているかを知らない。
一部の図書隊員が無意味さを感じるのも無理はないという状況も確かです。
けれど、国民の全員が全員認めてくれるものではないかもしれない。
でも何人かの人々は自由に本を読めるということのありがたさを感じてくれている人もいる。
その人たちのためにも戦うという決心をしている図書隊員の姿が頼もしく、彼らが劣勢の中でも戦い続けている姿に泣けてきました。
この作品、かなり自衛隊の協力も入ってましたね。
原作者の有川さんは自衛隊員を主人公とした小説を何本も書いているのでそのコネクションがあるからかもしれませんが、今回描かれる図書隊の立場はまさに日本における自衛隊の立場とも酷似します。
現場の自衛隊員が悩むこと(自らの組織の存在意義、世間の無関心)と共通する図書隊の悩みに共感したのかもしれないですね。
笠原と堂上のラブコメ要素もなくなったわけではなく、アクションやシリアスなテーマの間にいい感じで挟み込まれて、ほんわかと安らぐ気持ちになりました。
例によって岡田さんのアクションシーンは目を見張ります。
ここまでやれる俳優さんはなかなか日本にはいないですよね。
| 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (13)
最近のコメント