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2015年7月 5日 (日)

「予告犯」 「区別」する側の態度の蔓延

前作の「白ゆき姫殺人事件」ではネットに溢れる匿名のつぶやきが根拠のない「真実」を作り出していく怖さを中村義洋監督は描きました。
本作「予告犯」でも、犯人グループらの行動によりネットの世論が方向付けられていく様子が描写されます。
そういう点においては、本作は前作の「白ゆき姫殺人事件」の延長線上にあるとも言えますが(「ゴールデンスランバー」もこの線上かもしれません)、僕は本作は中村監督のデビュー作「アヒルと鴨のコインロッカー」と同じような雰囲気を感じました。
ある事件が起こる。
その事件の背景を明かしていく中で、犯人らの背景にある悲しい事実が浮かび上がっていく。
この二つの作品では、犯人はある意味、社会から脱落してしまった者と言えます。
本人たちがどうこうということだけでなく、生まれた時の境遇やその後の立場からなどから、社会からあぶれてしまった。
しかしそういった差別や区別というものは、いったんレッテル化してしまうと、本人たちががんばったと言ってもそれをなかなか覆すことはできません。
格差社会、二極化と言われて久しいですが、それが固定化してしまっているのが社会の課題なのでしょう。
奥野の回想シーンにある事務所のシーンは見ていて、辛くなってしまう場面です。
自分とは違うもの(往往にして自分たちよりも社会的な立場が低い者)を「区別」という態度は、自分自身の立場を安泰なものであると認識しているためにやっているのかもしれません。
それが側から見ると、とてもいやらしく醜く見えてしまいます。
しかし、これほど露骨でないにしても、少なからず似通った場面というのは社会の中でもありますよね。
自分だってやっているかもしれないという怖さもあります。
そういった「区別」をする態度が「アヒルと鴨のコインロッカー」が作られたときよりも、今の方がより多く現れているかもしれません。
自分の立場に自信が持てない人が増えてきているのでしょうか。
だから自分よりも立場が低い人々を「区別」しようとする。
ネット上での匿名での無責任なつぶやきも、同様な気持ちから発生しているかもしれません(そういう意味では「白ゆき姫殺人事件」も通じる)。
「区別」される側である4人の友情が切ないです。
この切なさは「アヒルと鴨のコインロッカー」のときにも感じたものでした。
「区別」される者同士での、友情、思いやり。
誰かのために何かをしてあげられるならば、自分のことを犠牲にしてもいいという気持ち。
「アヒルと鴨のコインロッカー」のドルジも亡くなってしまった友人のために行動をしました。
さきほど書いた「区別」する側の態度は、そのことにより自分の立場を安泰と考えたいという自分中心の者考え方でした。
4人組の行動は、自分のためではなく誰かのためのもの。
彼らの行動が尊く見えるのは、「区別」する側の態度が現代には蔓延しているからかもしれません。

「アヒルと鴨のコインロッカー」の記事はこちら→

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