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2015年4月15日 (水)

「機動警察パトレイバー the Movie」 東京の物語

現在実写版の「パトレイバー」が公開されていますが、今をさかのぼること25年前の1989年に劇場で公開されたのが本作「機動警察パトレイバー the Movie」です。
25年前に作られたアニメーションなのですが、今見ても古く感じることがありません。
それはこの物語の真の主人公が、東京という街そのものであり、その街が抱えていた問題は、今現在でも継続されているからであるかと思います。
1989年というと日本がバブル真っ盛りの時期で繁栄を謳歌していた頃でした。
経済が過熱し、地価が高騰、地上げなどが横行したのもこの時期です。

「パトレイバー」シリーズでレイバー(本作で登場する人型のロボットをこう呼ぶ)が登場するための設定が、東京で推進されている「バビロン・プロジェクト」という巨大プロジェクトです。
この計画は東京湾を横断するように巨大な突堤を築き、その内側の土地を干拓して広大な土地を確保し、都心が抱える土地問題を一気に解決しようというもの。
かつてない規模の土木工事のために、人型のロボット=レイバーが急速に普及したという設定になっています。

映画が公開された1989年はバブル景気の真っただ中です。
そのころの日本人は、やがて未曽有の好景気が終了し、その後東京が「失われた20年」を経験するとは思ってもみなかったでしょう。
聖書の中で語られる永遠に繁栄すると言われていたバビロンは、神の怒りに触れ、滅びました。
まさにこの映画で東京をバビロンに例えたことが予告したかのように、この街は凋落していったのです。
「ビューティフル・ドリーマー」等の押井作品では、宴は夢のような時間であり、やがて終わるときがくる、ということがたびたび描かれますが、本作もそのような視点であると言えます。

バブルの時期、本作でも描かれているように、それまでの東京(帆場が暮らしてきたような街)がいつの間にかなくなり、高層ビル群に象徴される新しい東京に上書きされていきました。
そこに暮らしていた人々などいないかのように、上書きされていく街。
街それ自体が生き物かのように無秩序に増殖していく。
計画性がなく増殖してしていくさまはがん細胞が増えていく様を想像させます。
今もなおカオスとも言われる東京という街の本質を本作は描いているように思います。

この作品で描かれる事件の犯人である帆場は早くから容疑者としてあげられていましたが、彼の人となりは刑事が足取りを追う中でもなかなか明らかにされません。
周囲との関係を断ち、東京という巨大な街の中に紛れて生きているのが、帆場という男であったのです。
関係性の欠如は現在の都会でも引き続き持ち続けている課題でもあり、現代的であると言えるでしょう。
巨大になりすぎた街は、そこに暮らす人間を矮小化します。
「巨人の街だな、こりゃ」と東京湾に浮かぶプラットフォーム「箱舟」で遊馬は言いますが、レイバーサイズが、メガシティにはふさわしい住民なのかもしれません。

本作はもしロボットが実用化されて社会で活用し始められたとき、世の中はどう変わるのかということをシミュレートしています。
人々の生活はどうなるのか、犯罪はどう変化するか、それに伴い警察はどう変わるのか。
リアルな世界観にロボットというフィクションを持ち込んだときの世界の反応を本作は描いています。
本作の脚本の伊藤和典さんは本作で、その後の「平成ガメラ」シリーズで、現代の社会に巨大怪獣が出現したとき、政府や自衛隊、市民はどう対応するのかということを再びシミュレートします。

OVAやテレビシリーズの「パトレイバー」に比べ、劇場版はより社会性がある物語となっており、その傾向はそのご劇場版2作目にも引き継がれていきます。
そしてその流れは実写版の「NEXT GENERATION PATOLABOR」にもつながっています。
もうすぐ公開される実写版ではどのように東京の物語の締めくくりをするのでしょうか。

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