「ビッグ・アイズ」 奪われたアイデンティティ
主人公のマーガレットが劇中で、自分が描いた絵は自分の子供のようなものと言う。
すなわち彼女にとって、絵は自分のアイデンティティの分身のようなものなのだろう。
彼女は内気で引っ込み思案な性格でありながらも、その中身は感受性が高く、豊かな想像力を持つ女性でした。
引っ込み思案だからこそ、自分の内にある気持ちを表現するために絵を描き続けていたのかもしれません。
彼女は表現をしたいだけであって、彼女自身が認められたいという気持ちを持っていなかったと思います。
しかし、ウォルターが自分の作品を自分のものであるように振る舞い、同じように嘘をつくことを強要されるにつれ、自分のアイデンティティが自分のものではないように感じてきたのではないでしょうか。
絵を描いている自分は、はたして自分なのか。
自分の自我の発露であった「ビッグ・アイズ」は、ウォルターの作品であるという。
そうしたら自分とはどこに行ってしまったのか。
マーガレットはアイデンティティ喪失の危機にあったのかもしれません。
逆に夫であるウォルターは高い社会適応性を持ちながらも、その内面は空虚でした。
彼自身もそれに気づいていたのでしょう。
しかし彼は芸術家が持つ豊かな個性、才能に憧れを持っていた。
憧れを持っていながらも、その才能を持ち合わせていないことを知っている辛さ。
その辛さを封じ込めるために、彼は才能あるアーティストの「身代わり」になったのでしょうか。
彼自身、自分でついた嘘をいつしか自分自身でも信じてしまっている風でもあります。
偽物のアイデンティティが彼の中では本物になっていたのかもしれません。
ウォルター自身も本来の自分のアイデンティティを失う、というより封殺していたように思います(クリストフ・ヴァルツのあの満面の作り笑いが見事)。
この夫婦は互いに己のアイデンティティを喪失しようとしていた。
マーガレットの自我は消されることに抵抗し本当の自分であろうとした。
ウォルターは自我を封じ込め他人になろうとする。
その二人の葛藤。
ウォルターが最後まで自分に対してついた嘘を、自分で気づくことなく一生を終えたことが哀れに感じました。
彼は結局誰であったのか。
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白塗りでなければジョニーもヘレナもいないという点では『ビッグ・フィッシュ』もあったけれど、バートンらしさがもりこまれていたからね、バートンらしさを封印し実話を映画にするというのが気になってました
※以下感想です
ネタバレありですのでご注意... [続きを読む]
受信: 2015年3月 1日 (日) 22時09分
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【BIG EYES】 2015/01/23公開 アメリカ 106分監督:ティム・バートン出演:エイミー・アダムス、クリストフ・ヴァルツ、ダニー・ヒューストン、ジョン・ポリト、クリステン・リッター、ジェイソン・シュワルツマン、テレンス・スタンプ
大きな瞳だけが知っている。
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受信: 2015年3月 1日 (日) 22時42分
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ウォルターという「共犯者」を得てマーガレットの書いた「ビッグアイズ」は売れた...... [続きを読む]
受信: 2015年3月 2日 (月) 09時46分
» ゴーストペインター~『ビッグ・アイズ』 [真紅のthinkingdays]
BIG EYES
1958年。専業主婦のマーガレット(エイミー・アダムス)は横暴な夫の下から
逃げ出し、一人娘ジェーンとサンフランシスコで暮らし始める。似顔絵描きを
始めたマーガレットは、ウォルター・キーン(クリストフ・ヴァルツ)という画家と
出逢い、結婚するのだが・・・。
1960年代のアメリカで、アンディ・ウォーホールもその才能を認めていた...... [続きを読む]
受信: 2015年3月 2日 (月) 13時13分
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1958年。
離婚を決意したマーガレット(エイミー・アダムス)は、娘ジェーンを連れて家出。
サンフランシスコで似顔絵描きを始めたマーガレットは、パリで画を学んだという社交的なウォルター・キーン(クリストフ・ヴァルツ)と出会い、結婚する。
2人の画を売ろうと躍起になるウォルターだったが、ひょんなことからマーガレットが描く“ビッグ・アイズ”が注目を集め、作者は自分だと嘘をつく。
口八...... [続きを読む]
受信: 2015年3月 2日 (月) 16時11分
» ビッグ・アイズ [そーれりぽーと]
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★★★★
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受信: 2015年3月 3日 (火) 20時15分
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1958年、アメリカ。 娘を連れて離婚し、絵で生計を立てようとしていたマーガレットは、パリの美術学校に通っていたというウォルター・キーンと出会い結婚する。 マーガレットが描く大きな瞳の子供“ビッグ・アイズ”は世界中で大ブームを巻き起こすが、全てウォルターが描いた絵として販売されてしまう。 ウォルターがアートの寵児としてもてはやされる一方で、マーガレットはアトリエに籠り、ひたすら絵を描いていた…。 実話から生まれた前代未聞のアートバトル。... [続きを読む]
受信: 2015年3月 4日 (水) 17時05分
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受信: 2015年3月 7日 (土) 15時07分
» ビッグ・アイズ ★★★.5 [パピとママ映画のblog]
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受信: 2015年3月 7日 (土) 19時53分
» ゴーストペインターもいたんです! [笑う社会人の生活]
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1960年代、哀愁漂う大きな目の子供を描いた絵画「BIG EYES」シリーズが世界中で人気を博す
作者のウォルター・キーンは一躍アート界で有名になるが何と実際に制作していたのは内気な性格の妻マーガレットで・...... [続きを読む]
受信: 2015年4月20日 (月) 07時14分
» ビッグ・アイズ [のほほん便り]
実話の映画化、ということで、興味深く観ました。
あの、誰もが「見たことある」印象的な絵にまつわり、そんなエピソードがあったとは!
米国って、こちらで想像してる以上に保守的なお国なのかなぁ、とも感じてしまったのでした。
でも、ビッグ・アイズの作者でもある奥方、最初に離婚したパワーは持ってたけれど、2番目の夫のビッグ・マウスぶりがパワフルで営業手腕が凄すぎたのかな?
事情を内緒にしてたけれど、ついに堪忍袋の緒がキレて、ハワイに逃亡。そこで、新興宗教の方と出会い、勇気を、って下りが... [続きを読む]
受信: 2016年5月17日 (火) 13時13分
» 『ビッグ・アイズ』('17初鑑賞13・WOWOW) [みはいる・BのB]
☆☆☆★- (10段階評価で 7)
2月13日(月) WOWOWシネマの放送を録画で鑑賞。 字幕版。 [続きを読む]
受信: 2017年2月19日 (日) 14時49分
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